荒川颯

琉球ゴールデンキングスの荒川颯は昨シーズン、リーグ屈指の強豪である琉球でローテーション入りを果たし、プロキャリア最高の1年を過ごした。ただ、選手層の厚い琉球においては今シーズンの立場はまったく保証されておらず、再び激しいポジション争いが始まる。プレータイムを求めるなら移籍してもおかしくない中、残留を選択した決め手はどこにあったのか。荒川の熱い思いを聞いた。

「キングスでまだ何も成し遂げていない」

──加入1シーズン目となった2023-24シーズンから昨年から徐々に出場機会を増やし、昨シーズンはチャンピオンシップでもローテーション入りしました。居場所を確立できたという達成感、安堵感はありますか。

いえ、ないです。そういうものは本当に一瞬で崩れると思っています。どんどん若くて良い選手も入っていますし、今の立場に安心せずに積み上げていかないといけない。チームの哲学である「現状維持は衰退」という考えは、自分も大切にしています。

──ロスターわずか11名でスタートした昨シーズンは、序盤から故障者が多く、さらに少ない人数で戦うことを強いられました。今シーズンはU22枠の平良宗龍選手と佐取龍之介選手まで含めると16名の大所帯です。人数が増えて競争が激しくなった危機感はありますか。

それはおっしゃる通りです。より競争心を持って日頃から練習に取り組んでいかないといけないです。昨シーズン、僕はほとんどの試合セカンドユニットで出場する機会を与えられていましたが、今シーズンのプレシーズンのスタートはセカンドユニットにすら入れない状況でした。出番をつかみとるための戦いはシーズン前から始まっています。

──プロとして自分の価値を高めるにはプレータイムは重要な要素だと思います。その中で、リーグでも1、2を争うほどチーム内競争が激しい琉球に残った決め手は何だったのでしょうか。荒川選手は琉球でプレーすることにどんな意味を見出していますか。

残ったのは、僕がキングスでまだ何も成し遂げていないからです。ここでチャンスをもらっているのに、それを捨てて違うチームに行くのは逃げだと思っています。チームの目標達成にしっかりと貢献し、自分の立てた目標を達成できた後に初めて去就について考えることができる。今はチームの目指すものをつかみとりにいくことに集中しています。

──そのように思う理由には、思うようなプロキャリアを歩めずにいた時期に練習生としてチャンスを与えてくれたチームに恩返しをしたい、ということもありますか。

それは大きいと思います。プロになってすごく苦しい時、キングスに救ってもらった感覚です。チームだけでなく、出番が少ない時から応援してくれているファンの皆さんに対しても……なんか、言わされていませんかね(笑)。移籍を選ぶ理由は選手によっていろいろだと思いますが、僕は愛も大事にしたいです。自分の性格的にも恩返しの気持ちは強いです。

──だとすると、昨シーズンの活躍では、まだ恩返しをできていない感覚ですか?

はい、まったく(笑)。まったくできていないです。一瞬の輝きだけで満足したらそれまでだと思っているので。そこはプロとして大切にしていますし、そもそもちゃんと輝けたとも思っていないので、もっともっとやっていきたいと思っています。

荒川颯

「タイトル3つをすべて取りに行きましょう」

──今シーズンもレギュラーシーズンに加え、東アジアスーパーリーグ、天皇杯に出場する過密日程となります。このタフなスケジュールに不安を感じたりしますか。

一切ないですね。チーム練習が始動する前、桶さん(桶谷大ヘッドコーチ)から「タイトル全部を取りにいかないと1つも取ることはできない」と言われましたが、その通りだと思います。チーム全員で、3つのタイトルをすべてつかみにいくマインドを作っていく。大きなチャレンジに臨めることは本当に楽しみです。

それに試合しているほうが楽なところもあります。昨シーズンは水曜、土曜、日曜と絶え間なく試合があって、最初こそきつかったですが、慣れてしまうと逆に水曜日に試合がない週やバイウィークになると不思議な感覚になっていました。バイウィークは旅行に行くなどリフレッシュする楽しみもありますけど、それ以上に試合がないと何をしたら良いか分からない感じになってしまって。バスケットにのめり込める環境なのは感謝しています。

──遠征が続く中、リフレッシュするために必ず持参するものやルーティンなどはありますか。

全然面白くないですけど、遠征に行く前には必ずそうじをして、帰ってきた時はきれいな状態にしておきたいです。遠征ですごく調子が悪かったとして、帰宅した時に家がぐちゃぐちゃだったら余計に落ち込んでしまうと思うので。しっかりと気持ちを切り替えるためにも、自宅をきれいにすることは沖縄に来た時から意識しています。あとはお風呂が好きなので、遠征中はホテルのお風呂が狭かったらチームメートを誘ってスパや温泉施設に行くことを楽しみにしています。

──最後に今シーズンに向けて、ファンへのメッセージをお願いします。

日本だけでなく、海外も含めていろいろな会場に行きますが、アウェーでも皆さんが来て応援していただけることが本当に僕たちの力になっています。僕たちと一緒にタイトル3つをすべて取りに行きましょう、と伝えたいです。