今年6月、シーホース三河の取締役に就任した佐古賢一。現役時代は絶対的な司令塔として、三河の前身であるアイシンシーホースに数々のタイトルをもたらした佐古は、現在、チーム編成を担うフロントとしてクラブを常勝軍団へと引き上げることに尽力している。今シーズン、どんな意図を持って選手を選んだのか聞いた。
編成の肝は「日本人選手を1人も変えないこと」
──6月末に取締役に就任し、チームディレクターと兼任されることになりました。役割にどのような変化がありますか。
チームの編成を取り仕切るところは同じですが、責任はより重くなったと思います。新アリーナの募金団体の理事を務めたり、スポンサー関連へのあいさつ回りにも取り組んでいます。
──佐古さんは選手・ヘッドコーチとして20年以上にわたってトップリーグの現場で活躍されました。フロント業務にはスムーズに移行できましたか。
苦労しました。今まではずっと現場にいて、選手が揃った状態でチームを引き受け、成長させ、戦うことが仕事でしたが、準備する側に回った今は、選手を揃えるだけでなく、トレーニング環境やアリーナ周りなど担当することが多岐にわたっています。ただ、バスケットボールに対する熱量は昔と同じです。練習も見に行きますし、試合後にヘッドコーチや選手とも話しますし、時にはオフコートでコミュニケーションを取るために食事にも行ったりします。皆と目標に向かって一歩ずつ前進していく感覚は選手時代、ヘッドコーチ時代と変わらないです。
──三河は2年連続チャンピオンシップ出場を果たし、『強豪』の地位を取り戻しつつありますが、いずれもクォーターファイナル敗退に終わっています。収穫と課題をどう感じていますか。
収穫は、一時期失われていた文化が再び定着し始めてきていることです。最後まであきらめず、チームとして戦う姿を見せることができています。大一番の「ここだ」という勝負どころで踏ん張りきれていない点は課題です。過去2年間チャンピオンシップに出場し、1勝もしていない悔しさは貴重な経験ととらえて、今シーズンは「日本人選手を1人も変えないこと」を編成の肝としました。
過去2年間、経験を積み重ねカルチャーを作ってきたチームが、さらに上に行くにはさらなる覚悟とプライドが必要です。環境に言い訳をさせないためにも、昨シーズンと同じメンバーにしました。成功と失敗を繰り返してチャンピオンシップ常連となり、セミファイナルに進出して、チャンピオンになる。今の我々はトップチームになる過程にいると思います。ここからのプロセスにはさまざまな選択がありますが、我々はこの2年間の積み重ねで作り上げているカルチャーを大切にする道を選びました。
また、今のメンバーは26歳、27歳とここから成熟していく選手が多いのが特徴です。そこに優勝経験のある須田侑太郎と石井講祐がおり、ダバンテ・ガードナーもベテランとしてチームを支えてくれています。ここに新たに主力となるベテランのトーマス・ケネディ、アーロン・ホワイトを加え、今のメンバーがこれまで作り上げてきたものを変化させるのではなく、彼らが築き上げたものでしっかりと結果を出し、この結果を受け止めて成長してくれることを我々は望んでいます。ビッグクラブでしたら1年単位で優勝するための戦力を準備することができるのかもしれませんが、我々はしっかり選手を育成し、タイミングが来た時に優勝を目指すチーム。そしてこれから全盛期を迎える選手たちが、地方の三河で「何かを成し遂げたい」とチームに残ってくれた思いを大切にして文化を作っていきたいので、このような編成を行いました。
「選手とコーチ陣とのコミュニケーションの密度が増した」
──佐古さんの現役時代を知っているファンからすれば、三河はこれまで多くのタイトルを獲得した、株式会社アイシンという大企業を母体とするビッグクラブと考える人は多いと思います。しかし佐古さんの認識はそうではないと。
確かに我々はアイシンという企業の傘下です。しかし、親会社に依存せず、自分たちで稼いだお金で優勝を狙える戦力を編成していけるクラブがビッククラブという認識です。競技面でも、アイシン時代は確かに決勝に行くことが当たり前に求められるチームでしたが、当時と今ではリーグの状況も違って、今は上位と下位の力の差も少ない戦国時代。その中でケガ人などさまざまな苦境に直面しても、それを乗り越え最後に結果を出す。これができるチームがビッククラブだと思います。昨シーズンは久しぶりに2年連続でチャンピオンシップに出場できましたが、もっと良い成績を残し、ビシネス面でもより結果を出すためにどんどんチャレンジしていきたいです。
──外国籍に関しては、3名のうち入れ替わったのは1名で、ザック・オーガスト選手が去ってホワイト選手が加入。昨シーズン途中から不在になっていたアジア/帰化枠にケネディ選手を獲得しました。
もちろん今シーズンも優勝を狙っていますが、先ほどお話したようにカルチャーは積み重ねていくものです。それを踏まえると今はヘッドコーチ、選手に大きな変化を求めるタイミングではないと判断し、外国籍も大きく変化しないことを選択しました。ただ、これまで活用できていなかった帰化枠でケネディ選手を獲得したのは大きなことです。昨シーズン、アジア/帰化枠を使わずにチャンピオンシップに出場したのは我々だけ。アジア/帰化枠をどのように使うことが結果に繋がるのか情報を得られる1年になればと思いますし、言い訳のできないシーズンになります。
──今シーズンでライアン・リッチマンヘッドコーチ体制が3年目となります。過去2シーズンにおけるチームの成長をどのように評価されますか。
選手とコーチ陣とのコミュニケーションの密度が増したことで、モヤモヤしたものが解消し、選手個々が取り組まなければならない課題や貢献してもらいたい部分が明確になりました。昨シーズン、我々はセカンドユニットが非常に良い数字を残しましたが、これはコーチ陣が各選手の役割をはっきりさせ、信頼関係を築けているからこそです。セカンドユニットの活躍は、ライアン体制の2年間で積み重ねてきた1つの成果だと思います。