ヌルヌル系ドライブ+フェイダウェイで真のスターに

2019年のオフ、突如としてラッセル・ウェストブルックとポール・ジョージの時代に別れたサンダーは、トレードの対価にルーキーシーズンが終わったばかりのシェイ・ギルジャス・アレクサンダーを求めました。6年後の今、シェイはリーグ得点王、シーズンMVP、カンファレンスファイナルMVP、そしてファイナルMVPと個人賞を総ナメにしてサンダーを優勝へ導く原動力となりましたが、そのサクセスストーリーはすべてが順調に進んだわけではありません。

クリッパーズでのルーキーシーズンからスターターとして活躍していたシェイですが、当初はオフェンスよりもディフェンスに強みを持った選手で、フットワークの良さで粘り強くマークし、213cmのウイングスパンでボールを奪う、エースキラーの役割を担っていました。

サンダーでの1年目となる2019-20シーズンは、相棒となるポイントガードにクリス・ポールがいた上、デニス・シュルーダーがシックスマンだったため、オフェンスを構築する役割を担わなかったシェイは19.0得点に対してアシストは3.3と少なく、ハンドラーとしてのプレーは限定的でした。このシーズンは同じ2018年ドラフト組のルカ・ドンチッチが28.8得点、8.8アシスト、9.4リバウンドを、トレイ・ヤングが29.6得点、9.3アシストを記録しており、この2人に比べてシェイは大きな後れを取っていました。

3年目のシーズンはサンダーが完全に再建へと切り替え、シェイはメインハンドラーとして23.7得点、5.9アシストを記録。4年目も24.5得点、5.9アシストと大きな成長を見せましたが、層の厚いガードにおいては特筆すべきスタッツとは言えず、オールスターにすら選ばれませんでした。

リーグトップのドライブ数で得点を奪っていくシェイですが、爆発的なスピードで置き去りにするわけでもなければ、多彩なハンドリングやフェイクといったスキルで翻弄するわけでもなく、それでもディフェンスの間を抜けていくプレーは『ヌルヌル系ドライブ』と呼ばれました。これは予備動作が小さく重心移動がスムーズで、力感なく相手を抜くためですが、このシェイの動きはディフェンスが反応するのが難しく、それでいてウイングスパンを利用した多様なレイアップはフィニッシュ精度が高く、毎シーズン得点力を向上させていきました。

この特徴的なドライブムーブに加え、5年目からはフェイダウェイをフィニッシュパターンに取り込みました。リングから3mから6mほどのミドルからショートレンジのフィールドゴールアテンプトは、4年目の2.4本から5年目には6.3本と倍増しており、これまでリングに向かっていくレイアップ系統中心だったのが、逆にリングから離れてのシュートが加わったことで、ディフェンスはさらに対応が難しくなったのです。

このフェイダウェイが加わった2022-23シーズンに平均得点を7も伸ばし、そこからの3シーズンはすべて平均30得点超え。このエースの劇的な変化に伴い、サンダーの成績も上向きました。ドライブとキックアウトを中心としたサンダーのオフェンス戦術は変わらなくても、その起点となるシェイが圧倒的なパフォーマンスを見せることで相手はダブルチームで対応せざるを得ず、それがチームメートを楽にしていきました。

ドラフトで集めた若いチームだけに選手個人のレベルアップはサンダーにとって必要不可欠な要素でしたが、エースであるシェイも同じく大きな成長を遂げ、リーグ最高の選手に到達したことがチームに優勝をもたらしました。『エースとともにチームが成長していく』という理想を体現したようなサンダーの勝利で幕を閉じた今シーズンでした。