トレードデッドラインに動かず「それはそれで良い」
トレイルブレイザーズに異変が起きている。開幕から1月中旬まで13勝28敗と低空飛行を続けていたが、突如として10勝1敗の快進撃を見せた。いまだ順位表では底に近いが、プレーオフを目指す集団に迫っている。
そしてチームはトレードデッドラインで動かなかった。補強なし、戦力放出もなし。他のチームが補強に必死になっている時期、ブレイザーズは絶好調で勝利を重ねており、しかも再建チームのため勝利のプレッシャーはない。ジョー・クローニンGMは、このままプレーオフを目指すのかと問われて「今の選手たちからそのチャンスを奪うのは不公平だろう。『つかみ取ってみろ、君たちならできる』。こういう考え方が私は好きだ」と語った。
「ただ、最近のチームの戦いぶりが我々の決断に影響を与えたわけではない」とクローニンGMは続ける。「我々は常に大局的な見地に立ち、価値のあるトレードができるのなら迷わず決断した。今回はいくつかまとまりかけた案件はあったが、実現しなかった。価値を見いだせなければ動かない。それはそれで良いことだ」
ディアンドレ・エイトン、ジェレミー・グラント、アンファニー・サイモンズといった主力は年俸が高く、今の市場では敬遠される。それであれば、チームを引っ張っている彼らを安売りしてまで放出する理由はない。
トレードデッドラインが過ぎた後、現地2月8日のティンバーウルブズ戦に敗れて今シーズン最長となる6連勝はストップした。ここからナゲッツとの連戦、ルカ・ドンチッチが復帰しているであろうレイカーズとの対戦が続くスケジュールで苦戦は免れないだろうが、そもそも数週間前まではほとんど勝てなかったチームである。どの選手もパフォーマンスが上振れしていたが、普通に考えれば調子には波があり、上がった後には下がるものだ。
それを理解していてもブレイザーズはロスターに変更を加えなかったし、ヘッドコーチのチャウンシー・ビラップスは「今の我々が持っているもの、ここまで取り組んできたこと、その成長の過程が大いに気に入っている」と語る。
指揮官就任4シーズン目のビラップスが『アメとムチ』を使い分けられるようになったことが、ブレイザーズの突然のブレイクを生んだと言える。これまで厳しさはありながらも選手に寄り添う姿勢を前面に押し出していたが、今シーズンはそのバランスを変えた。そして就任当初から「ディフェンスで勝つ」を掲げていた方針はそのままに、より徹底することを求めた。
ある時、ビラップスはスクート・ヘンダーソンの守備の強度が低いプレーばかりを集めたハイライトを作って本人に見せ、「こんな守備では使えない」と伝えた。ヘンダーソンがショックを受けながら「これが自分だとは思えない」と言うと、ビラップスは「次からは違う姿を見せるんだ」と励ました。ヘンダーソンはこんな無様なプレーは二度としないと誓い、次の試合からではなく、その日の練習から違う姿を見せるようになったという。
シェンドン・シャープは同じことをしても改善が見られなかったためにスタメンから外し、シックスマンとして自分にできるプレータイムだけ激しく守れと命じた。ベテランのグラントにもエイトンにもビラップスは容赦がない。そして今やリーグでも注目のディフェンダーとして相手チームのエースから忌み嫌われるトゥマニ・カマラが、このチームで最も重用される選手となっている。
そうやって選手個々の意識改革が進み、それがチームとして噛み合ったことで、ブレイザーズの快進撃が始まった。ビラップスは「目の前の試合で必死に勝ちにいかない限り、成長などあり得ない」と常々語っており、今はまさにそんな戦いぶりを繰り広げている。プレーオフに進出するかしないかを問わず、今の彼らのメンタリティは非常に健全であり、変える必要はどこにもない。