阿部友和

文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

劣勢の試合展開、チームを立て直した司令塔

富山グラウジーズはレギュラーシーズン58試合を終えて30勝28敗。首の皮一枚、といった感じではあるがチャンピオンシップ進出の可能性を残している。前節は横浜ビー・コルセアーズを相手に連勝。横浜は長い連敗中だが、残留プレーオフ回避に負けるわけにはいかず、ホーム最終戦でブースターを前に意地を見せる必要もあり、いつも以上に激しいプレーを見せた。第1戦は猛反撃を浴び、第2戦は大きなビハインドを巻き返す対照的な試合展開となったが、最終的には富山が2点差、3点差で勝ちきっている。

第2戦の第4クォーター残り33秒、逆転3ポイントシュートを決めて勝利の立役者となったのが阿部友和だ。もっとも、最後の3ポイントシュートより前の段階、悪い流れの中でチームを立て直したゲームコントロールの部分こそ、阿倍の真骨頂だった。

「横浜さんは最後のホームゲームで、選手もスタッフもそうですけど、会場全体で勝つって気持ちがすごく伝わって、自分たちのリズムでやれないしフリースローも落とさせられたし、ずっとプレッシャーをかけられて受け身になりました。僕たちも身体の疲れというより心の疲れをコートに出してしまったと思います。ディフェンスもオフェンスも個々でやってしまい、横浜さんのシュートが入る中で焦りを感じてしまいました」

阿部がそう語るように、第1クォーターを9-22と圧倒され、前半を終えて23-41。ジャッジが安定せず、両チームともにフラストレーションが溜まる状況でもあり、ビハインドを背負う立場は圧倒的に不利。それでも阿部はここからチームを立て直す。「スタメンのグループがいろんな部分で集中できていなかったので、何とかコントロールしようと。シュートが入らず点差が縮められなかったのですが、それはある程度できました」

そして後半、シュートが入り始めたことで富山に流れが傾く。レオ・ライオンズとジョシュア・スミスにボールを集める中で、宇都直輝と阿部が同時にコートに立っている時間帯にはこの2人で切り崩すことで攻めにアクセントが付き、横浜を圧倒した。「宇都選手と出た時には僕もスイッチを入れて、速い展開でどんどん点を取りに行くようにしています。そこで10点差ぐらいまで詰めて、ここからだな、と。向こうにやられることもあるだろうけど、最後に勝ってればいいと思ったので焦りはなかったし、一つずつディフェンスを、一つずつリバウンドをやろうと声を掛けて、それを最後までできたのが良かったです」

阿部友和

「チームを落ち着かせて、そこからどこで点を取るのか」

最終クォーター、横浜も必死の粘りを見せる。アーサー・スティーブンソンとブランドン・コストナーに加えて帰化選手のエドワード・モリスを同時起用するビッグラインナップを採用、ディフェンスとリバウンドから立て直しにかかる。それでも、勢いはすでに富山にあった。

「僕は点差を常に頭に入れていました」と阿部は言う。「9点差、8点差、6点差、3ポイントシュートが入って3点差、みたいな感覚です。相手がミスした時に、次に2点を取ればいいのか3点なのか、どちらが相手にプレッシャーを与えられるか。ここで冷静にやれたのは今までの経験だと思います」

「今シーズンに僕が求められているのはこの部分。これまで富山は残留プレーオフに行くチームで、終盤にバタバタする時間帯が多くて、最後の3分とか4分で一息つかせることが必要だということで呼ばれました。だからこそ、自分の成長のことも考えてそこにフォーカスできたのが今シーズンの良かったところです。点を取られたから慌てるのではなく、チームを落ち着かせて、そこからどこで点を取るのかを冷静に考えて、それをブレずにやれました」

残り1分48秒、5点ビハインドの場面で宇都に代わって阿部がコートに戻る。阿部からライオンズ、スミスとシンプルにパスを繋いでバスケット・カウントの3点プレー、続くポゼッションではライオンズに外からアタックさせて、あっという間に70-70の同点とする。横浜のクラッチシューター川村卓也のジャンプシュートで70-72とされたものの、阿部が今度は3ポイントシュートを沈めて、残り33秒でこの試合で初めてのリードを富山にもたらした。

阿部友和

「あそこで3ポイントを打つ度胸はないと言われました」

「僕が出る前からジョシュ(ジョシュア)を止めようとガードの選手がマークに行くことが多く、それでも宇都選手は外のシュートがあまり得意ではないので、そこでオフェンスが止まることが多いと感じていました。僕は今日シュートが入っていなかったのでリスキーではあったんですけど、ジョシュが打てるセットをコールして、ジョシュが行かなかったら自分が行こうと決めていました。2点差だったので、ここで決めたらデカいとも思いました」

阿部がフワリとしたボールをスミスに入れるが、スティーブンソンがゴール方向を押さえ、ヘルプした田渡凌がスティールを狙っていた。スミスは自分で攻めるのは無理と判断して阿部にパスを返す。この時点で阿部に迷いはなかった。田渡が慌てて戻るも、阿部にプレッシャーを掛けるには至らず。逆転の3ポイントシュートが寸分違わずリングを打ち抜いた。

「みんなからは、あそこで3ポイントを打つ度胸はないと言われましたけど、僕としては自分の考えの中で打ちました。だから僕の作戦勝ちですね」と阿部は会心のプレーを笑みとともに振り返る。

阿部の想定通り、この3ポイントシュートのダメージは計り知れないものがあり、タイムアウトを取ってベンチに戻った横浜の選手たちは下を向いていた。残る時間を落ち着いて乗り切った富山が75-72で勝利している。

ただ、横浜に連勝すること、そして今週末の最終節で連勝することは、富山のチャンピオンシップ進出には最低条件。それをクリアしてなお、ライバルチームの負けを待たなければならない。もっとも、ここでも阿部はブレない。「自分たちが勝てば行ける状況ではないんですが、他チームの勝ち負けに関係なく、自分たちができることにフォーカスしないといけない。結果としてチャンピオンシップに行けても行けなくても、最後の2試合を無駄にはできません。今回も相手がどうこうではなく、チームとしてこういうプレーができたことは大きな成長だし、チームが一つになっていることが証明できたのは大きいと思います。最後、胸を張ってシーズンを終えることができればいいと思っています」