先が見えないケガと経営難に見舞われる『不遇のキャリア』
佐藤託矢はバスケットの神様にプレーする機会を取り上げられる、数奇な人生を送ってきた。
青山学院大学を経て、トップリーグに進んだ三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ(現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)で着実に成長を遂げていたが、足首のケガに見舞われた3シーズン目からの2年間、コートから遠のく日々が続く。
治療やリハビリをしながら復帰を目指していたが、一向に回復の兆しが見られず、「手術をするか、引退するか」の二択を迫られた。手術をしても復帰できる保証はない。だが、一縷の望みに賭け、手術に踏み切ったことで2012年2月6日のホームゲームで復帰を果たす。
当時の悲痛な叫びは佐藤自身がブログに綴っているので、興味のある方はぜひハンカチを準備した上で見ていただきたい。
順調に回復し、さらなるチャンスをつかむべく、JBLからNBLに変わった2013-14シーズンは千葉ジェッツに移籍。プロとしての一歩を踏み始める。しかし、水が合わなかったのか1年で次のクラブへ移ることに。そうして迎えた2014-15シーズンは、身体が動くのにバスケットができない最悪の年となった。
移籍したつくばロボッツ(現茨城ロボッツ)が2014年の年を越せないほどの経営難に陥り、運営変更を余儀なくされる。つくばに残る道もあったが佐藤は退団を選択。そのため、バスケットができない空白の日々を過ごすはめになった。
3×3の大会に出場しながら新天地を探す日々。その後に、和歌山トライアンズに加入し、ケガをする前と同じくらいのプレータイムを与えられたが、シーズン終了後に和歌山もまた経営状況が悪化し、クラブ自身がトップリーグでの運営を続けられなくなってしまった。
「もう昔のことですが、当時は自分がそこで頑張るんだという気持ちでいました。でも、チームがあんな状況になってしまって大変だったし、どうすることもできなかったです。それも、今思えば良い経験になっています」
できないことを把握し「ベテランらしいプレーを目指す」
振り返れば、不遇なバスケット人生を佐藤は歩んできた。昨シーズンより京都ハンナリーズにやって来たことで、ようやく居場所を見付けられたようだ。多くのファンに支えながらコートに立っている姿を見ると、ついつい感慨深くなってしまう。つい先日のことのように思っていたあの大きなケガを乗り越えて復帰してから、すでに5年が経った。
「すごく大きなケガをして、2~3年ほど思うようにプレーができなかったからこそ、今は楽しいです。でも、まだ足が痛い時もあるし、昔みたいに思うように身体の使い方ができないところもあり、パフォーマンスは確実に落ちています」
Bリーグとなった現在、198cmの体躯を生かしオンザコート「1」の時間帯で身体を張り、持ち前の広いレンジからシュートを狙う、その特徴を生かすプレーは変わらない。だが、できないことを把握しているからこそ「ベテランらしいプレーを目指して頑張っている」と話しており、能力に頼らない部分にもしっかりと取り組んでいた。
「パスが回らへんかったり、シュートセレクションがすごく悪い状況があるので、その中でもうまくつないだり、インサイドアウトだったり、そういったプレーの起点になることを目指してやっています」
「個人的には楽しめている部分もあり、充実しています」
琉球ゴールデンキングスとの2戦目はしっかりと勝つことができ、佐藤は10得点を挙げる活躍を見せた。だが、勝利の喜びよりも、「昨日の負けがかなり大きかった。今日の勝ちはうれしかったけど、昨日の試合でちゃんとできていればという悔しさの方が大きい。なんとか土曜日に勝てるようにしたい」と反省点を挙げる。彼にとってはチャンピオンシップ争いを勝ち抜くためのポイントが「土曜日に負ける試合が多いので、まずはそこをなくしていくこと」なのだ。
そのためには、「最初の試合から相手に負けない強い気持ちで臨めるようにすることがチームの課題」としていた。次戦は、これまで以上に強い気持ちで戦う準備をして臨まねばならない、西地区王者となったシーホーム三河戦が待っている。
数奇なバスケット人生を乗り越え、こうして今も現役を続けられていることは偶然ではない。かといって当たり前のことでもないはずだ。
「とにかく京都に来られた今、すごく良い環境の中でバスケができており、パフォーマンスも日に日に上がっています。昨年よりも今年の方が絶対に良いですし、それを実感できているのが楽しい部分でもある」
昨シーズンは平均2.9点だった得点が、今は4.9点まで伸びている。琉球との第2戦のように得点が2桁に乗る試合もある。チャンピオンシップ進出を巡るタフな戦いが続き、チームとしては楽しんでいられる状況ではないが、それでも「個人的には楽しめている部分もあり、充実しています。もっとできるんじゃないかなと思ってます」と向上心を持って、バスケットができる『今』を謳歌している。
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