金本鷹

今年の藤枝明誠は夏のインターハイで福岡第一とオーバータイムにもつれる激闘を演じるも、これを落としてベスト8止まり。U18日清食品トップリーグでは八王子学園八王子と京都精華学園から2勝を挙げたものの、全国制覇を狙うライバルには連敗している。才能溢れる留学生のボヌ・ロードプリンス・チノンソが3年生となった『勝負の年』だが、大エースの赤間賢人が抜けた穴は今も埋まっていない。それでも金本鷹ヘッドコーチは、ウインターカップまでにチームをベストの状態に仕上げるつもりだ。

「率直に言えば、相性の良い組み合わせだと思います」

──ウインターカップの組み合わせが発表されました。初戦が岡山商科大学附属、順当に行けばベスト8で東山、そして福岡大学附属大濠と当たります。この組み合わせをどう見ますか。

率直に言えば、相性の良い組み合わせだと思います。バスケのスタイルで言うと、福岡第一と美濃加茂のディフェンスでアグレッシブに来るチームにウチは相性が良くありません。トップリーグを含めて、ハーフコートでバスケをするチームをどう守って勝つのか、そうやって自分たちのバスケをブラッシュアップさせる戦い方がウチには向いていると思います。

逆に言うと今年のチームはプレッシャーに弱いと言うか、福岡第一と美濃加茂の激しいプレッシャーに私も含めて慌ててしまうので(笑)。準決勝や決勝まで行けばやらなきゃいけないので、逃げの姿勢になるわけではありませんが、相性という点では良かったと思っています。

ただ、その前に初戦の岡山商科大学附属も今年は留学生が入りましたし、次は新田が来るとすれば日本人だけのチームですが独特のスタイルなので、そこに守り勝つことができるのか。その一つ上は高山西、土浦日大、東海大諏訪、正智深谷が並んでいますが、そこを勝ち上がった勢いがあるはずです。

──それでもこの数年で、藤枝明誠が全国区の強豪だというイメージは定着したのでは?

うーん、そうだとありがたいとは思いますけど、私自身の中で考えているバスケをまだ明確に選手に伝えきれていない部分があるとも感じているので、難しいところですね。

──2年前に金本さんがヘッドコーチになり、チームは着実に成長してるように見えます。

ただ、去年までは赤間賢人がいたのがすごく大きいです。彼が形を作らなくても自分で打開できるところが正直あって、ロードプリンスがいればリバウンドもリムプロテクトも強いし、悪い言い方をすれば選手頼み。得点力に関しては赤間が抜けたことで半減しました。

──半減まで行きますか?

それ以上だと思っています。トップリーグの最後の大濠戦でも、点が取れないなあと。ただ、県予選が終わって1週間で、ディフェンスから走るところをずっとやってきて、ハーフコートは何もやっていないんですね。指示も全く出していません。ハーフコートオフェンスで得点が伸びないのは、ある程度は仕方ないです。そこはウインターカップに向けてこれから作っていきます。まずはディフェンスと走るところにポイントを置いて、去年まではそこから赤間がクリエイトして相手が寄ってきたらパスをさばけていましたが、その分はシステムで打開する。それを最後の1カ月でやっていきます。

藤枝明誠

「得点力でずば抜けた選手がウチにはいません」

──そのシステムでの打開は、どんなイメージですか?

個のクリエイト力よりも組織でのクリエイト力を考えたいです。ズレの連続性に今は着目しています。1対1の状況で隣のディフェンスにヘルプを意識させたら1対1.1になって、オフボールのところで1対0.9ができる。もう一つズレを作って1対0.8になると、そこを守るために相手はさらに0.2寄らなきゃいけない。それを積み重ねて1対0.5にして、理想としては1対0に持っていく。そういった組織オフェンスを作りたいと思っています。

東山や大濠には得点力でずば抜けた選手がいますが、今年のウチにはいません。渡邊聖も良いシューターですが、クリエイトしてのシュートではないので。野津洸創はサイズのあるウイングプレーヤーとして将来性のある選手ですが、まだやっぱりフィニッシュには課題があります。その個々の課題に取り組みながらも、よりチームに貢献できるプレーヤーになってもらうためのシステムを作っていきたいと考えています。

──そういったチームを成長させる手段を考えて取り組むのは、大変さもあるし面白さもあると思います。金本コーチはそのバランスをどれぐらいで感じていますか?

チーム作る難しさがあることを、すごくありがたいという感覚が自分の中にあります。自分を研鑽するきっかけになりますし、「これじゃダメだな」、「もっと考えなきゃな」、「もっと勉強しないと」と思わされることばかりで、楽しいとは言えないかもしれませんが常に新鮮な気持ちでやれています。

その中でもやっぱり難しさも歯がゆさもあって。選手に対するフラストレーションも当然出てきます。バスケならともかく、生徒指導の問題とか日常生活の問題が出てくると「こんなことに時間使ってんじゃないよ」とも思いますし。でも、それが高校生だよねとも思います。バスケを通して人間をどう成長させていくのかがやっぱり私たちのベースでなければいけない。特にこの1年間はそういうことを感じながらやっています。

──藤枝明誠の選手たちを見ていると、すごく明るくて良い子たちに見えます。

特に今年はみんな本当に良い子ですね。ただ、バスケで言うとそれが悪い子になってしまうことがあります。すぐ譲ってしまうんですよね。勝ち負けのギリギリのところで譲ってしまう。悪くなれない。みんな協調性があって、「カラスは白い」と言われたらそのまま受け入れてしまうような。トップリーグでもよくあったのですが、ブレイクに持っていかれるところで最後までコンテストに行かないとか。ファウルになってでも阻止すべきところなのに行けない。それはチームとして見られた時に、やっぱり「弱い」になってしまいます。

そういう部分で渡邊はすごくやってくれる選手なんですけど、最近ちょっと丸くなってきました。インターハイではもっとガツガツやってたんですが、協調性があるせいで周りに合わせてしまっている感じです。それでも勝負ごとに遠慮はいらないし、それがこのチームのスタイルであってほしいので、ガツガツした部分をもっと出してほしいです。出る杭は打たれるなら、とことん出て打たれないような選手になってほしいです。

金本鷹

「ディフェンス、ブレイク、ハーフコートオフェンス」

──エースの野津選手についてはいかがですか。

野津も同様で、ウインターカップの準決勝前日に「去年に赤間がやったことをお前がやらなきゃいけないんだ」と本人にも伝えました。それでペイントを攻めてフィニッシュに行ったり、攻めるシーンが増えたのですが、言われてやるのではなく、もっと自分から気持ちをどんどん出してほしいですね。

──それではあらためて、このチームがウインターカップで優勝するために必要な要素は?

すごく多いんですけど、まずはもう一回、ディフェンスと走るところをブラッシュアップさせなきゃいけない。そして先ほど話したハーフコートオフェンスのシステム作りですね。ディフェンス、ブレイク、ハーフコートオフェンス。この3つがしっかりしているのが絶対条件になります。

──それでは最後に、ウインターカップで藤枝明誠のどこに注目すべきかを教えてください。

藤枝明誠は過去2年間も冬に向けて大きく成長したチームだと自負しています。今年はインターハイでベスト8、トップリーグは7位と、全国の上位に食い込むことがなかなかできなくて、そこまで力のないチームと評価されているかもしれませんが、ウインターカップに向けてチームをブラッシュアップしているところです。今回のウインターカップも、藤枝明誠のスタイルを全国の皆さんにお伝えする大会にしたいと思っています。皆さんに応援してもらえるようなチームであるように頑張っていきます。