文=大島和人 写真=B.LEAGUE

行く先々で最多入場者記録を打ち立てた栃木&田臥

近畿地方には大阪エヴェッサ、京都ハンナリーズ、滋賀レイクスターズとB1クラブが3つある。この3チームが今シーズンのホーム最多入場客数を記録した相手チームは、いずれも栃木ブレックス。これは間違いなく『田臥効果』である。

3月19日の栃木戦で、滋賀はクラブ史上最多となる4123人の観客を集めている。チケット販売が試合開始1時間前に打ち切られる『札止め』になった。膳所駅からウカルちゃんアリーナに向かう道で、栃木戦の告知ポスターが貼られているのを見つけた。そこには「田臥勇太に挑め!」という文字が躍り、滋賀の3選手以上に大きさで田臥の顔が映し出されていた。

能代工業高時代の9冠、元NBA選手といったキャリアもあり、田臥の知名度は別格。バスケにそれほど興味がない人もアリーナに運んで来てくれる存在だ。

もちろん彼の活躍は現在進行形である。19日の試合は第3クォーターの終盤に栃木が21点ビハインドを負うという、極めて厳しい展開だった。「激しく前から当たって、プレッシャーをかけるしかなかった」という展開の中で、田臥はオールコートディフェンスの先頭を切り、82-80の大逆転勝利を守備から演出した。

残り4分23秒、3点ビハインドの場面では田臥を含む3選手が並里成へ一気に詰め寄り、トミー・ブレントンがスティールに成功した。並里は少し呆れたような顔で、田臥をこう称える。「36歳がオールコートでプレッシャーに来たり、前から来たり……。自分の持ち味というか生き方、ポイントガードとして通用していくために必要なモノを分かっています」

滋賀初体験の田臥、自身も各地での盛り上がりを実感

若い頃のバネ、動きの切れはもうないのかもしれない。しかし栃木が勝つため、そして日本バスケの発展のために、という大きな視点で彼は行動できる。メディアに対する受け答えも抜群で、相手が仮に一見の記者だとしても誠実に、しっかり向き合って答えを返すのが田臥だ。

「滋賀県で試合をするのは初めてですよね?」。そう記者に問われた田臥は「滋賀県に来るのも初めてでした」と返していた。世界でプレーしていた彼が今さら滋賀初体験というのは少し不思議にも思える。とはいえ彼がレイクスターズと対戦したのは、先週末の連戦が間違いなく初めてだった。

満員の観客、盛り上がりを見て田臥はどう思ったのか? 彼はこう述べる。「アウェーですけれど、これだけたくさんの方が会場に集まって、試合を見てくれるのは本当にうれしいこと。滋賀県に初めて来ましたし、滋賀県で初めてプレーしましたけれど、これだけ盛り上がっている、バスケットを見に来てくださる方がいるというのを知ることができてうれしかったです」

大阪、京都、滋賀はいずれも旧bjリーグのクラブで、栃木と対戦する機会がなかった。それぞれのブースターも地元で田臥を見ることはなかった。2016-17シーズンのB1は、そんな引き裂かれていた両者が邂逅する1年間になっている。

田臥は言う。「滋賀もそうですけれど、行ったことのなかった土地で、試合したことのなかった相手と試合をするのは個人的にうれしいこと。チームとしても知ってもらえるチャンス。これがBリーグになって良かったことの一つだと思いますね」

バスケ少年から注がれる熱い視線、田臥にも良い刺激に

どこに行っても田臥は人気者だが、滋賀でも試合前からバスケ少年たちが彼に熱い視線を注いでいた。子供たちにとっても田臥自身にとっても、幸せな時間だ。

「一生懸命応援してくれて、声をかけてくれたりするんですけれど、土地土地によって子供のアグレッシブさがいろいろあって面白いです。滋賀県の子供たちは元気があるなと感じました(笑)。一つでも僕のプレー、チームのプレーを見て真似したいだとか、プロ選手になってみたいと思ってくれたらうれしい。僕も本当に良い刺激をもらいました」

子供たちはスター選手を目の当たりにして喜び、相手のクラブは観客数の増加を笑う。田臥自身も土地土地の盛り上がりを実感し、子供から刺激を得る──。そんな皆を幸せにする旅が、栃木と田臥の交流戦、アウェーゲームだった。