田中こころ

「コートに出たら緊張しなかったですし、いつものプレーっていう感じです」

Wリーグの2024-25シーズンが10月13日に開幕した。今オフのWリーグは移籍が活発で、その象徴がENEOSサンフラワーズで黄金時代を作り上げた渡嘉敷来夢、岡本彩也花のアイシンウイングスへの移籍だった。この結果、昨シーズンに就任したティム・ルイスヘッドコーチの下、今シーズンのENEOSは名実ともに新時代を迎えることとなった。

ルイスヘッドコーチは就任1年目から積極的に若手を起用し、プレータイムもシェアすることで平面での激しいディフェンスから展開の速いバスケットボールへの転換を図っていた。そして、2年目の今シーズン、このスタイルがより浸透していることをトヨタ自動車アンテロープスとの開幕節で示した。

初戦を78-72、第2戦を65-62と難敵相手に連勝を収めたENEOSだが、特に強烈な存在感を放ったのは田中こころ、八木悠香の高卒ルーキーコンビだ。八木は開幕戦でプレータイムなしだったが、2試合目に18分33秒出場で13得点を挙げると、さらに3リバウンド1スティール1ブロックと守備でも奮闘した。

そして八木を上回るインパクトを与えたのが田中で、2試合続けてシックスマンとして主力の一員を担った。開幕戦でいきなり23分48秒出場の11得点2リバウンド2アシスト2スティールと鮮烈なデビューを果たすと、第2戦も18分28秒出場で5得点4リバウンド3アシスト2スティール1ブロックと攻守で勝利に貢献した。

開幕戦で申し分のないスタートを切った田中は「自分の役割は交代で出てチームの流れを変えることが一番です。そこは今日、できたと思います」と振り返る。そして、高校時代から大舞台でも物怖じしない強心臓を見せていたが、Wリーグでもそれは変わらないと続ける。「緊張というよりワクワクした気持ちで、アップの時からやっていました。多少の緊張はいつもしますが、コートに出たら緊張しなかったですし、いつものプレーっていう感じです」

田中こころ

「常にチャンスがあれば1年目とか関係なく出たいと思っていました」

また、「流れを変える部分では少し貢献できたと思いますが、ディフェンスで簡単にやられた部分が何本もあったのは課題です」と、周囲の誰もが称えるパフォーマンスにも納得していない。ちなみに本人が課題としたディフェンスだが、桜花学園高校の先輩で日本代表のエースである山本麻衣を苦しめる場面もあった。

それでも田中に達成感はなかった。「山本麻衣さんにマッチアップするために練習をしてきました。そんな簡単に勝てる相手ではないですが、1本スティールは絶対にやろうと目標にしていました。でもスティールはできなかったので、もっと負けないようにディフェンスを頑張りたいです」

こうした発言が示すように、田中にはルーキーだからと一歩、引くようなところはない。「常にチャンスがあれば1年目とか関係なく出たいと思っていました。出させてもらっている分、コートではしっかり活躍したい気持ちです」と堂々と語り、チームの主力を担っていく気概を見せる。

「どんな時も、コーチも先輩方は思い切ってやっていいよと言ってくださっています。コートに出た時には学年とかは関係ないですし、コート上で遠慮をすることはないです。個人的にはどの試合も波のないように頑張りたいです」

この物怖じしないメンタルはオフコートでも発揮され、先輩たちとコミュニケーションを深めるのに役立っているという。チームリーダーである宮崎早織が、田中の性格面について「私と似ています」と語ったことについて、「先輩をいじったりしますし、その分、いじられます。宮崎さんと一緒に2人でしゃべっているのはうるさいです」と答えるなど、早くもすっかりチームに溶け込んでいるようだ。

田中、そして八木と、ENEOSは注目のルーキーが開幕節から期待が大きく膨らむパフォーマンスを見せた。このように新たなスタイルで、新しい力が台頭する変化がある一方、変わらないものがある。それは常にタイトルを欲する女王としてのプライドだ。田中も「チームとしての目標は三冠です」と強調するように、チーム全体にその思いは浸透している。新人離れした卓越したスキルと強靭なメンタルを備える田中が今シーズンのENEOSに欠かせない戦力になることを示した開幕節となった。