文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、B.LEAGUE

長いレギュラーシーズンも残り2カ月。初年度のBリーグにおいて、序盤からリーグ最高勝率をキープし続けているのが川崎ブレイブサンダースだ。特筆すべきは、2017年に入って辻直人、ライアン・スパングラーと中心選手に離脱者が出ても白星を確実に重ねていること。これは北卓也ヘッドコーチの的確な采配であり、巧みなチームマネージメントがあるからこそだ。

現在、プレーオフ第1シードの座に最も近い川崎を率いる指揮官に、これまでの戦いぶりを振り返ってもらうとともに、長いシーズンを戦う中でチームを成長させ、安定して結果を出す秘訣について語ってもらった。

今シーズン、辻とファジーカスへの依存体質を徐々に解消

まず、三遠ネオフェニックスとの開幕2連戦に連敗するも、そこからは圧倒的な強さを見せた前半戦の戦いぶりについて評価してもらった。

「複数の選手がずっと代表に行っており、チーム練習も満足にできない中で迎えた開幕だったので『どうなるのか?』という感じでした。どれくらいできるのか、楽しみと不安の両方がありました。三遠との開幕2試合では、準備をしてきたのに、結果的には代表選手に頼りすぎた面がありました。もう少し他の選手を信頼してプレーさせてあげたほうが良かったのかもしれず、自分の経験不足がありました」

「ただ、この連敗が良い薬にもなりました。そこから順調すぎるというくらい負けなかった。正直、もう少し負けるゲームはあるかなと思っていましたが、接戦から勝った試合もあり、予想以上の面はありました」

昨季と比べたチームの違いについて、個人技だけに頼らずチームオフェンスで相手を崩していることを挙げる。

「昨シーズンまではニック(ファジーカス)と辻(直人)を抑えれば、相手もどうにかなるという感じでした。しかし今シーズンは、他の選手が崩してニックや辻にシュートを打たせるパターンができています。そしてライアン(スパングラー)が加入したことで、ニックと辻がフリーになってくる部分も大きいと思います」

重要な場面で戦力が整えるための『コントロール』

順風満帆な2016年から一転、2017年に入ると川崎は辻とスパングラーを相次いで故障で欠くというアクシデントに見舞われる。だが、北は「特に焦ってはいません。控えが成長するチャンスと思っています」と受け止めている。

これには2シーズン前の教訓がある。2013-14シーズン、当時の『東芝ブレイブサンダース』はリーグ制覇。しかし、翌2014-15シーズンは中盤に篠山竜青、終盤にセドリック・ボーズマンが戦線離脱。そしてプレーオフ直前にはファジーカスまで故障。プレーオフに駒を進めたものの、ファーストラウンドで大敗し連覇を逃してしまった。

「ケガ人がでると主力にしわ寄せがいきます。試合でのプレータイムが伸び、そこから新たなケガ人が出てしまった。この時に学んだのは、重要な場面で戦力が整っていないと難しいということ。目の前の試合に勝つことは重要ではありますが、私がこの部分をコントロールできていませんでした」

「連覇と言われ、『勝たなければいけない』というプレッシャーの中、主力がいないことで、それを補うために何か違うことをしなければいけないと、いろいろな準備をする。そうなると練習時間も増えますし、疲れも取れにくくなります。結果的に選手の疲労もコントロールできず、最終的に主力不在でプレーオフを迎えて敗れました」

「この経験があるので、今回はそこをコントロールして若手や控え選手をうまく使いながら、もちろん目の前の試合には勝ちに行きますが、最終的な目標であるBリーグ初代チャンピオンを達成するためにどうしなければいけないのかを考えてやっています」

主力離脱はチームの底上げ、若手の成長のチャンス

辻とスパングラーの不在は確かに苦しい。だが、主力不在を若手の成長するチャンスととらえることで、実際にチームの底上げについても手応えを感じつつある。

「序盤、マドゥ(ジュフ磨々道)が欠場していた時に永吉佑也が成長してくれました。鎌田裕也もビッグマンのところでしっかりつないでくれています。野本(建吾)は本来なら3番(スモールフォワード)で使いたいところですが、ライアン不在により彼を4番で使う組み合わせで、しっかりやってくれています」

今、北がさらなるチーム力アップの鍵と見ているのは、野本、晴山ケビン、谷口光貴の大卒入団2年目トリオだ。「3人とも個性のあるプレーをするので、彼らの強みの部分を出させていきたい」

「ディフェンスに若干の不安はあります。うちはディフェンスのチームです。得点を取ってはいますが、ディフェンスがしっかりすることが、まずは試合に出るための物差しです。ミスをしても、その後の対処が良ければいいのですが、その瞬時の判断がまだまだです。ただ、彼らには本当に期待していますので、見守りながら我慢強くやっていきます」