渡邉拓馬

「若手が昨シーズンの経験を持っていなければチームは簡単に崩れてしまう」

昨オフに岡田侑大ら有力選手を補強し、開幕前は西地区の台風の目になると予想されていた京都ハンナリーズだったが、勝ち星を伸ばすことなく1743敗、西地区最下位でシーズンを終えた。日本人選手全員が20代というリーグ1若いロスターで戦った昨シーズンを渡邉拓馬GMはどのように総括しているか。

——まずは昨シーズンの振り返りをお願いします。

岡田侑大選手と前田悟選手を獲得し、外国籍選手を入れ替えた時点で、ディフェンスでトラブルが生じて我慢の試合が多くなるイメージは少なからず持っていました。シーズン序盤から、対戦相手や関係者の方に「良い補強をしたね」とは言われましたが、そんなにうまくはいかないよなとも思っていました。それでもベテラン選手を獲得しなかったのは、ロイ・ラナヘッドコーチとともに優れた若手を育てていきたいという狙いがあったからです。岡田選手や前田選手、澁田怜音選手、小西聖也選手らに、試合の中で多く経験を重ねてもらうことが一番重要だと考えていました。

——結果はある程度予測していたということでしょうか?

予想外なこともたくさんありましたけど、昨シーズンの経験が今後の彼らのキャリアに生かされるだろうと思います。CJ(チャールズ・ジャクソン)やKJ(ケビン・ジョーンズ)も他の選手と同じで、特にKJは「今までこんなにリーダーシップをとってプレーしたことがない」と言っていました。そういう経験はサンロッカーズ渋谷に移籍した今シーズン以降も、彼の人生に生かされていくと思います。

結果は出ていませんが、選手たちはコーチと話し合いながら、もがきながら、なんとか勝とうとしていました。勝負を投げ出すことなく、なんとか「京都のために」「チームのために」とみんなでやり切ろうとしている姿を目の前で見てきました。そういったことが経験できるチームやシーズンは多くはないと思います。負けているけど試合的には面白い試合も多く、それがお客さんの数に反映されていたと感じています。プロなので結果を出さなければ一般的な意味での評価は得られないかもしれませんが、面白い試合をして、若手が躍動することが今の京都には大事だと思っていました。そういった意味では進んでいる方向は間違っていないかなと感じました。

——「ベテラン選手が不在のチームだからこそ、若手が育つ」という渡邉GMの思いがある程度達成できたということですね。

今シーズンはベテランが入って練習の雰囲気が全然違いますし、やはりバスケットというスポーツは経験のスポーツだというのあらためて感じています。ただ、仮にベテランがケガをしてしまったとして、若手たちが昨シーズンの経験を持っていなければチームは簡単に崩れてしまうでしょう。選手はもちろん、その後の人生を考えた時にもそういう経験は生かされるだろうなと思いますし、私もそういう経験をしてきたので、それが彼らのキャラクターの軸になるだろうと考えています。

京都ハンナリーズ

「失敗させてあげられる環境や勇気も私たちには必要」

——昨シーズンの具体的な戦いぶりについてもうかがわせてください。

昨シーズンも勝った試合もあれば取りこぼした試合もある中、経験のなさやメンタルの弱さといったネガティブな要素とともに、ポジティブな可能性も感じました。琉球ゴールデンキングスや宇都宮ブレックスといった上位チームに勝った試合は自分たちのやるべきことがしっかりと遂行できて、我慢もできた試合でした。

一方で負けた試合は我慢ができなかったり、選手本人たちのいろんな感情が入ったり、コーチ陣の問題などでうまく嚙み合わずもろさが出てしまった。そこから新たな課題がどんどん見えてきたという感じですね。そういった試合を重ねるにつれて私自身も「経験のある選手が必要かもしれない」「こういった選手がここのポジションに必要だな」「今いる選手が伸びるためにはどうしたらいいか」などと考えるようになりました。

——そこから見えてきた課題が今シーズンのロスター編成に反映されている感じでしょうか?

自分の考え、ロイヘッドコーチの考え、クラブの考え、それぞれのバランスを取りながらですね。信頼関係が成立した状態で編成ができましたが、自分の考えや色を出すタイミングの重要性を思い知らされもしました。私は人の考えを尊重しすぎるところがあるので、自分の意見をもう少し押し通しても良いのかなと思いましたし、今シーズンは少しそこが出ているかなと思います。

——渡邉GMは目先の結果よりもクラブの成熟や選手のキャリアを考えた発言が多いです。どのような経験からそのような言葉が出てくるのでしょうか?

今も学びながら生きていますが、現役時代の経験が大きいと思います。プロになった時に先輩やコーチに「ああしろ、こうしろ」と言われたものですが、この世界に入った選手ってある程度自分の考えもあるし、クセもあるし、個性もあるし、頑固なんですよね。人に言われても素直に受け入れることができず、自分で経験しないと動かないと言いますか。何かつらい経験をした時にやっと「自分の今までやってきたことは間違っていたし、甘かったし、もっと変わらなければダメだ」と方向転換ができます。だから、失敗させてあげられる環境や勇気も私たちには必要だと考えています。

GMになった時に、ただクラブを強化するだけではなく、関わる人に何か残してあげたいという思いがありました。だからロイヘッドコーチを連れてきました。選手たちには、彼とやることでいろいろな経験をしてほしいと思っていますし、実際に今、いろいろな出来事が起こっているところです。3年後、5年後、もしかしたら10年後かもしれませんが、彼らが「あの時こういう経験ができたことが大きかったな」と感じ、次の世代の選手にもそれを伝えてくれて初めて「GMをやって良かった」と思えるんじゃないかと思います。(後編へ続く)

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