ネッツ

文=神高尚 写真=Getty Images

脅威のオールラウンダー、バグリー三世を止めるのが第一手

プレーオフを目指しキングスのホームに乗り込んだネッツは、第4クォーター開始時点で25点差をつけられ敗戦濃厚に追い込まれましたが、オールスターにまで成長したディアンジェロ・ラッセルが第4クォーターだけで27点を奪って窮地を救い、チームを歴史的な大逆転勝利に導きました。しかし、そこにはエースの大爆発だけでは語れない戦略的駆け引きがありました。

若き有望株がシーズン通して躍動し、東西それぞれのカンファレンスを沸かしてきた両チームでしたが、より多くのスター候補を抱えているのはキングスです。この試合もポイントガードのディアロン・フォックスがスピードに乗り始めると手が付けられなくなり、キングスは速攻だけで25点を奪います。

チームのリーディングスコアラーであるバディ・ヒールドはネッツが最も警戒していた選手で、サイズがある選手をマークにつけられたことで、3ポイントシュート8本すべてを外し8点に留まっていましたが、アウトサイドへの警戒が強まったことで生まれたインサイドのスペースをマービン・バグリー三世が活用することで、キングスのオフェンスは第3クォーターまでに103点を奪います。

バグリーのこの動きはネッツを大いに困らせました。センターがマークにつくと3ポイントシュートを決め、フォワードがマークにつくとフィジカルで押し込み、それでいてダブルチームになれば的確に空いた選手にパスを通していったバグリーは、フィールドゴール15本中12本を決め28点を奪いました。

ケガでの離脱もありドラフト2位ながらチームが好調な中で出番が短かったバグリーですが、シーズンが進むにつれてその万能性が際立ってきました。サイズとスキルを併せ持ち、フィジカルの強さもスピードもあるバグリーは弱点が少なく、ガード相手でも守り切るようなペリメーターディフェンスとブロック力も兼ね備えています。

普段はスモールラインナップを多用し、スピードのミスマッチを巧みに誘導していくのが得意だったネッツですが、バグリーの存在に攻守に困らされ、スピードでもフィジカルでも上回られたことが25点ものビハインドを負った要因になっていました。

そこでネッツの指揮官ケニー・アトキンソンは迎えた第4クォーターに、思いもしない奇策に打って出ました。ディアンジェロ・ラッセルと一緒にコートに立ったのは、ロンディ・ホリス・ジェファーソン、ロディオン・クルッツ、トレビアン・グラハム、ジャレット・ダドリーの4人。全員が普段は同じパワーフォワードのポジションで起用されている選手たち。

パワーフォワードといってもネッツの場合は、3ポイントシュートはもちろん、ボール運びやガード相手のディフェンスも担当するのが日常のため、2人を同時起用するシーンはよくありますが、ポイントガード1人とパワーフォワード4人という組み合わせはネッツファンですら驚きの策でした。

その狙いは明確でインサイドに強い選手を多く揃えることで、そこまで大いに困らされていたバグリーに対して複数人で対応することと、アウトサイドシュートを追い掛け回し、抜かれてもカバーに行きやすいディフェンスシステムの構築です。

そしてオフェンスはすべてをラッセルに任せました。

この狙いは驚くほどに当たり、第4クォーターのキングスは8本すべての3ポイントシュートを外し、ドライブしてもカバーに困らされ、そして複数人に囲まれるバグリーはインサイドに侵入できなくなりました。

またこの奇策はキングスのディフェンスに混乱を生じさせました。居並ぶパワーフォワードにマークの受け渡しミスを連発。ネッツがオフボールでポジションチェンジをすると簡単にフリーの選手が生まれ、そこにラッセルからのアシストパスが次々に通りました。さらに混乱はドライブへのヘルプが間に合わなくなる悪循環に繋がり、ラッセルが次々に得点を挙げていき、大逆転勝利が完成しました。

アトキンソンが採用した奇策は第3クォーターまでの内容から生み出された明確な理由があるものでしたが、普通は同じポジションの選手を4人も同時に起用すれば自分たちがバランスを崩してしまいます。歴史的な大逆転劇を生み出した指揮官の奇策は、突然の起用法にも適切なバランスを保てる選手たちの高い戦術理解度があってこそ採用できた策でもありました。