阿部諒

ディフェンス力とトランジションで、仙台が最終戦で勝利を飾る

5月5日、群馬クレインサンダーズと仙台89ERSの今シーズン最終戦が行われた。互いにシーズンを良い形で締めくくるべく前半は拮抗した展開となったが、後半に流れをつかんだ仙台が98-79で勝利した。

ゲームの入りから0-8のランを食らった仙台だったが、その後は持ち前のチームディフェンスとトランジションオフェンスが機能して追い上げに成功。速攻での得点が8得点と、群馬のお株を奪い24-23と逆転して第2クォーターに入った。渡辺翔太と青木保憲が3ポイントシュートを成功させると、ディフェンス強度も上がり、このクォーターで群馬から5つのターンオーバーを誘発。ベテランの片岡大晴もシュートを決めて、チームを盛り上げた。ラショーン・トーマスの連続得点と阿部諒の3ポイントシュートでリードを広げるかに思われたが、並里成にブザービーターを許し48-45で前半を終了する。

勝負のポイントとなったのが第3クォーターだった。5分ほど一進一退の攻防が続いたものの、阿部の3連続得点とネイサン・ブースの3ポイントシュートで9-0のランを作り、この試合初めて点差を2桁に広げた。ディフェンスでもラスト4分間の群馬のフィールドゴールを1本に抑えて最終クォーターを迎える。流れをつかんだ仙台はチームディフェンスをしっかりと遂行して、約3分間を無失点に抑えると、その間に9点を積み上げて一気にリードを広げた。このクォーターだけでヴォーディミル・ゲルンが9本のリバウンドを獲得するなど、インサイドの安定感も増して群馬に付け入る隙を与えず、今シーズン最多となる98点を奪い最終戦に花を添えた。

仙台の藤田弘輝ヘッドコーチは「最後はナイナーズのバスケットで終わろうと皆で話して、今日はそれができたと思っています。ナイナーズらしいディフェンスとオフェンスで最後の試合をやれたのはうれしいです」と安堵の表情で試合を振り返り、今シーズンのチームについて言葉を続けた。「本当にハードワークするチームで、誰一人『自分が』という人がいなくて、全員がどうすればチームが良くなるかを考えていました。だからこそビッグクラブにも勝てたシーズンになったと思いますし、そういうチームで働けたことは誇らしく思っています」

仙台89ERS

藤田HC「仙台にとって阿部の加入は大きな分岐点になった」

仙台は昨シーズン1試合の攻撃回数を示すペースがリーグで24チーム中13番目とリーグ中位だったが、今シーズンは4番目と多く、シーズンを通じてトランジションの意識を高く持って戦ってきた。実際、第1戦ではファストブレイクが3得点と伸び悩み敗戦に繋がったが、この試合では27得点を記録し勝因の一つとなった。

藤田ヘッドコーチはトランジションがポイントだったと話す。「昨日は『自分たちのバスケットじゃないよね』と話しました。オフェンスではまず走ろうというのが、今シーズン強調してきたことなので、ボールをアドバンスして皆でコーナーまで走って、ビッグマンもリムランしてというのをすごく大事にしてきました。全員がアグレッシブに攻めてくれたと思います」

この試合でチーム最多タイの19得点を挙げた阿部も同じようにトランジションについて言及した。「このチームが1試合目からシーズンを通じてやってきたことを、もう一度立ち直れてやれたことが勝因だと思います。オフェンスの終わりからディフェンスのスタートが遅かった部分を修正して臨みました」

昨シーズンまで所属した島根スサノオマジックでは『守備職人』というイメージが強かった阿部だが、仙台ではプレーメーカーとして平均14.6得点、4.8アシストを記録してオフェンスの中心を担った。4月の古巣島根戦ではキャリアハイとなる35得点を叩き出すなど、得点能力の高さを存分に証明したシーズンとなった。

だが、この大きな変化について阿部自身は次のように話す。「昨シーズンの僕の役割はディフェンスとオープンシュートを決めることでした。今シーズンはハンドラーという役割に変わりましたけど、マインドは大きく変わっていません。相手の脅威になるために、いつでもゴールに向かってプレーすることは決めていることです」

藤田ヘッドコーチは阿部の加入が仙台にとって大きなインパクトだったと話す。「全員がチーム思いな選手たちが揃っている中で、良いエゴというか『自分がやる』という選手が出てこなかったのが昨シーズン苦しかったところです。阿部がそれをやってくれて、引っ張られているヤス(青木)も昨日も今日も良いプレーをしてくれましたし、仙台にとって阿部の加入は大きな分岐点になりました」

開幕4連敗からスタートしたが、結果的には27勝33敗と昨シーズンよりも8つも多くの勝ち星を手にした。この要因について藤田ヘッドコーチは「(要因は)良い人間がチームにいることです。4連敗して外からヤンヤ言われ、ヘッドコーチとして僕は繊細な人間なので辛かった時期ですが、コートに入るとみんなのエナジーを感じて、愛あふれる人たちに非常に助けられました。そういうチームだからこのような結果を残せたと思います」とチームを評価した。

阿部も同様にチームについて、こう振り返る。「本当にセオさん(藤田HC)の言葉通りだと思います。良い人間がいて、僕自身も勝つために間違った伝え方をしてしまっても、皆は僕のことを仲間として受け入れてくれて、皆がいなければここまでこれていませんでした。このチームでなければ良いパフォーマンスを保てなかったと思います。チームメートやセオさん、スタッフに感謝したいです」

当然ながらバスケットボールはチームスポーツでスーパースターがいても簡単に勝てるものではない。それぞれの選手が自分の役割を全うして、さらに大きなケミストリーを生み出す。この試合でもチーム力の強さをあらためて感じさせられた。素晴らしい人間性の選手やスタッフが集まって作り上げた『仙台らしいバスケ』、その可能性は無限に広がっていく。