肝心な場面で『弱気』が出るエンビードの悪癖は治らず
ジェームズ・ハーデンのトレード要求に揺れながら始まったセブンティシクサーズの今シーズンは、第1クォーターの22点ビハインドを前半のうちに覆し、それでも試合終盤の接戦を勝ち切れずに終わりました。負けた4試合すべてが7点差以内の接戦と紙一重のシリーズではありましたが、シクサーズはこの『紙一重』をまたも超えられませんでした。
ヘッドコーチにニック・ナースが就任したことで、チームには様々な変化が起こりました。その中でも重要だったことはジョエル・エンビードにもハードワークを求めたことでした。特にピック&ロールディフェンスにおいてハンドラーへのプレッシャーがルーズで、プルアップの3ポイントシュートを簡単に許していたことは、対戦相手のヘッドコーチとして利用していたからこそ真っ先に埋めようとした弱点でした。
ナースの期待に応えるようにペリメーターでもしっかりとチェイスするようになったエンビードの改善もあって、シーズン前半のシクサーズは優れたチーム戦術を発揮し、12月まではリーグで2番目の得失点差を誇っていました。その後、エンビードの離脱により急激に成績を落としたものの、昨シーズンから前向きな変化が目立っていました。
しかし、シーズン終盤にケガを押して戻ってきたエンビードはドライブからユーロステップを踏んだ時に、自らの体重を支え切れずに倒れるなど満身創痍でした。そして迎えたプレーオフでは平均33得点を奪う得点力こそ発揮したものの、攻守に運動量が落ち、特にペリメーターディフェンスはナース就任前のルーズさに戻ってしまいました。
また、近年のシクサーズで役割を失いつつあったトバイアス・ハリスは、ナースにより一つのオフェンスで複数の選手が絡むプレーが増えたことで存在感を取り戻し、得点、リバウンド、アシストのすべてで昨シーズンよりも良いスタッツを残しました。ところが、プレーオフになるとそのオフェンスは影を潜め、エンビードとタイリース・マクシーのアタックばかりとなり、ハリスは再び存在感を失いました。
万全の状態でプレーオフを迎えるのが大事なのは言うまでもありませんが、エンビードの離脱と復帰でやりたいバスケが変わってしまったシクサーズを見ると、シーズンを通してチーム作りを進める重要性を感じずにはいられません。
プレーオフでのエンビードは満足に動けませんでしたが、それでも高いシュート力を発揮して奮闘しました。しかし、勝負どころになると人が変わったように弱気になる面もありました。ゲーム4の残り23秒ではエンドラインからのスローインでフリーで打てたミドルレンジを選択せず、密集地帯にドライブしてチャンスを潰しました。ゲーム5の終盤はコーナーでパスを待つプレーが増え、ゲーム6の終盤もハイポスト近辺でボールを持っても自分で攻める選択をせずにハンドオフプレーを繰り返し、試合を決めるシュートはマクシーに頼ることになりました。
第4クォーターのフィールドゴール成功率が23%と極端に決まらず、それだけでなく煮え切らないプレーも多く出てしまったエンビード。シュートタッチが悪い試合であればともかく、39得点を奪ったゲーム6でさえも弱気が顔を出してしまうのは、今シーズンも繰り返されたエンビードとシクサーズの長年の課題です。
試合中の修正により大量ビハインドから逆転するなど、従来のシクサーズとは異なる戦いぶりをナースは植え付けました。マクシーは勝負どころで強気にアタックして勝利をもたらすなどエースの存在感を発揮しつつあります。エンビードのケガさえなければ勝機を見いだせたのは間違いありませんが、敗戦は敗戦。今シーズンも『プレーオフで勝てるチーム』へのステップアップは果たせませんでした。
そしてシクサーズは今オフにエンビード以外の主力全員の契約が切れます。マクシーとは大型契約を結ぶことが想定されますが、サラリーキャップには大きな空きがあり、フリーエージェントでスター選手を連れてくることも、ロールプレーヤーを充実させることも可能です。逆にトレードには動きにくいため望むような補強ができないまま終わる可能性もありますが、いずれにしても大胆なテコ入れが行われることになりそうです。