田中大貴

後半で攻守にわたって真価を発揮し、決勝点を沈める

残すところあと2試合となったB1レギュラーシーズン。しかし、この期におよんでチャンピオンシップ(CS)出場枠のうち中地区2位とワイルドカード2枠が未確定という、Bリーグの創設以来最も大混戦となっている。

4月27日と28日に行われた第35節で、中地区2位、もしくはワイルドカードでのCS出場に望みをかける川崎ブレイブサンダースとサンロッカーズ渋谷が激突した。ゲーム1は69-68で川崎が勝利。ゲーム2もSR渋谷のメインハンドラー、アンソニー・クレモンズとベンドラメ礼生が早々にファウルトラブルに陥り川崎優勢と見られたが、77-79でSR渋谷が劇的な勝利を収めた。

この試合で23得点11リバウンドを挙げたジョシュ・ホーキンソンのリム付近での奮闘や、要所の3ポイントシュートを含む22得点のクレモンズの攻撃力がチームに流れを呼び込んだのは間違いない。しかしウィングプレーヤーの田中大貴が見せた活躍も勝利に欠かせない重要なファクターだった。

先発出場した田中は、川崎の得点源であるトーマス・ウィンブッシュとマッチアップ。ベンドラメやクレモンズがベンチに下がる時間帯はメインハンドラーを担い、第2クォーターにはホーキンソンのピック&ポップによる3ポイントシュートをお膳立てしたが、前半トータルで見てみると決して乗り切ったパフォーマンスではなかった。

田中が真価を発揮したのは後半だ。第3クォーター残り4分4秒、ジェフ・ギブスからのアシストで、左コーナーから3ポイントシュートを沈めてビハインドを3点に縮め、第4クォーターのファーストポゼッションでもジャンプシュートを沈めた。守っては川崎の流れを断つ好ディフェンスを遂行し続け、いくつものターンオーバーを誘発させた。

そして残り16.5秒、77-77の同点で迎えたラストポゼッション。田中はクレモンズのパスを受けて左コーナーから鋭いドライブを仕掛け、川崎の長谷川技が待ち構えるリングへ向かい、そのまま決勝点となるレイアップを成功させた。

田中大貴

うまくいかない日々に伴走してくれた指揮官の存在

田中はこのシュートを決めたときについて、次のように振り返る。

「直前の指示は、サップ(クレモンズ)がウイング付近でピック&ロールを使うというものだったんですけど、相手がプレッシャーをかけてきてサイドに追いやられてしまっていました。ただ、川崎さんはそういうときにコーナーからディフェンスが寄るので、もし自分のところにパスが来たら縦に割れるなと(コーナーで)構えながら思っていました。そして案の定良いパスが来たので、思いっきり縦に割っていって。チャージングになるかもしれないとも思いましたが、思いっきりアタックしようと思ってましたし、リングしか見ずに攻めました」

アルバルク東京でリーグ連覇の立役者として輝いた田中は、昨シーズン、腰のコンディション不調でわずか14試合の出場に留まった。「自分は試合をやり続けないと感覚がなくなってしまうタイプ。1年試合をせずに休んでいた代償です」と本人が話すように、新天地のSR渋谷でもパフォーマンスが安定せず、CSに向けて正念場を迎えたここ数試合も納得いくプレーができずにいた。

「本当にクソみたいなプレーをして、チームに迷惑をかけています」。クールな田中にしては珍しく、吐き出すように強く言った「クソ」という言葉に、彼が今シーズン経験したたくさんの葛藤がこもっているように感じられた。どのように自身の感情と折り合いをつけて今に至るのかと尋ねると、田中はルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチの存在が大きいと答えた。

「 昨日の試合だけじゃなく、前(4月10日)の川崎さんとの試合もあんまり良くなかったですし、試合に出られなくてもおかしくない状況だったと思いますけど、やっぱりずっと、ある程度そういう自分の状況も理解してくれて、使い続けてくれて…。なんていうんですかね、頭を下げずに、どんどん、どんどん、やることが大事だって言ってくれるので、それにすごく助けられているなって思います」

改めて説明するまでもないかもしれないが、パヴィチェヴィッチヘッドコーチは2016年に男子日本代表のテクニカルアドバイザーとして来日し、翌年よりA東京を指揮。2014年にプロキャリアをスタートさせた田中に多大なる影響を与えた人物だ。

田中は「自分は彼のことをよく知っているし、自分が一番迷惑をかけることが心苦しいところもある」と気持ちを吐露し、「それでもやっぱり、なんとか力になりたいと思ってやっています」と力を込めた。

「今シーズンも腰の調子がよくなくて、途中で少し間が空いてしまった。大変だなって思いながらやってるんですけど、自分にもやっぱりある程度のプライドはあります。そういうことを言い訳にせずに、なんとか良いパフォーマンスをしたいと、毎日、自分自身と葛藤しながらやっています。1番良くないことは(挑戦を)やめてしまうこと。どんな状況だろうが、どんなパフォーマンスだろうが、 自分はこの姿勢を貫いてやるだけかなと思います」

田中大貴

「自分たちの手でCSをつかみ取れたら、また違う戦いが待っていると思う」

SR渋谷のレギュラーシーズン最終戦の相手は、B2への降格回避に向けて死にものぐるいの信州ブレイブウォリアーズ。CS進出条件はシーホース三河や川崎、その他チームの結果がからむ複雑なもので、田中も「正確には理解していない」と話していたが、少なくとも信州に連勝しないことには何も始まらないことだけは分かっている。

「自分たちの手でCSをつかみ取れたら、また違う戦いが待っていると思うので、やっぱりなんとか(CSに行きたい)。今までいろんなことを経験してきていますし、CSでその経験を出せれば、今シーズンを自分にとって納得できるシーズンにできるんじゃないかと思います」

外国籍選手を抑え込むディフェンス。冷静な判断。そして、フェイダウェイ気味に放たれる美しいフォームのジャンプシュート……。この試合で彼が見せたパフォーマンスは、『エース』としての彼の風格を久しぶりに呼び起こさせられるものだった。

そのような田中の姿をより長く見ていたいと願うファンのために。自分を導いてくれた恩師のために。支えてくれるチームのために。何より自分のために。田中は週末の2試合に全力を注ぎ込む所存だ。

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