トーマス・ウィンブッシュ

徹底した「チーム一丸で戦う」という意識

第29節で千葉ジェッツに大敗した川崎ブレイブサンダースは、続く第30節、広島ドラゴンフライズにも連敗を喫した。

ゲーム1は60-94。広島のキックアウトからの3ポイントシュートを守れず、自分たちのシュートが入らない(フィールドゴールパーセンテージは今シーズンワーストの34.5%だった)。思い通りにいかないあせりから、選手たちは『チーム』でなく個々のベクトルでバラバラに行動しだし、第3クォーターを終えた時点で43-71と、勝負を決められた。

ゲーム2も第1クォーター終盤から第2クォーター序盤にかけて0-19のランを作られた。ゲーム1と同様にノーマークの3ポイントシュートを気持ちよく決められ、第3クォーター開始1分29秒で30点ビハインド。詰めかけたファンたちが絶望に陥る中で、ここから一筋の希望を見せてくれたのがトーマス・ウィンブッシュだった。

ゲーム1で約2カ月ぶりに先発起用されたウィンブッシュは、この試合も先発として、持ち味であるエネルギッシュなアタックを展開していた。11-31と水を開けられた第1クォーター終了時には、肩を落とすチームメートたちを鼓舞し、その後もアタックだけでなく3ポイントシュート、身体を張ったディフェンス、ルーズボールと、攻守にわたってエナジーを発揮し続けた。

特に、大差がついた第3クォーターからの活躍が素晴らしかった。22点差で迎えた第4クォーターは、2月に加入したばかりの益子拓己と共にクラブのアイデンティティである『BE BRAVE(勇敢たれ)』を体現するようなパフォーマンスを見せ、最終スコア87-98と意地を見せた。

チーム最長の32分24秒出場し、ゲームハイの33得点(3ポイントシュートは4/5本成功)を含む6リバウンド5アシスト、第4クォーターだけで15得点というスタッツを残したウィンブッシュは、後半の自身の心境について次のように振り返る。

「コーチ(佐藤賢次ヘッドコーチ)が『チームとして一丸でやろう』と話していた。良くても悪くてもチーム一丸で戦おう、と。『あきらめない』というメンタリティが僕自身の強み。チームのために戦い続けたからああいったプレーが生まれたんだと思う」

トーマス・ウィンブッシュ

うまくいかない時期に背中を押された存在

アグレッシブなプレーや情熱的な振る舞いを見ていると意外にも感じるが、キャプテンの篠山竜青いわく、ウィンブッシュは気を遣う性格で、周りからの指摘でプレーを自重してしまう傾向があるという。

今シーズンより川崎に加入したウィンブッシュは、シーズン序盤から高い身体能力を生かしたアタックなどハイパフォーマンスを見せ、高い期待を集めていた。ところが前述のような性格やケガが重なり、プレータイムが減ったり、持ち味を発揮できない時期も過ごした。

この時期のことについて尋ねると、ウィンブッシュは「(プレータイムが減ったのは)ケガが少しあったので、コーチは僕のことを守ろうとしていただけだと思う」と言った後に、支えられた存在について明かした。「ジーノ(篠山)がリーダーとして助けてくれた。『しっかりアタックし続けろ』っていつも言ってくれているので、すごく感謝しているし、そのメンタリティをキープしてアタックし続けている。今日も『打ち続けろ、ディフェンスし続けろ、アタックし続けろ』、『チームのためにやり続けて、ファイトし続けてくれ』と言われていた」

このシリーズを終えて川崎は26勝24敗。中地区5位、ワイルドカード7位に落ち込み、CS進出に向けていよいよ後がなくなった。攻守の要である藤井祐眞がコンディションの不調から精細を欠く今、ウィンブッシュの活躍、そして彼を生かすオフェンスの構築はこれまで以上に重要になってくるだろう。

「厳しい状況ではあると思う。シーズンを通してすごいアップダウンが激しいし、勝たなきゃいけない。だけど、できることはチームとして一つにまとまって、毎試合自分たちのベストを尽くすことだけ。本当の終わりが来るまで終わりではないと思うので、頭を上げて、ここから先も一つひとつしっかりやっていくしかないと思う」

敗戦という事実はもちろん消せない。しかし、自分にできることに全力を傾け、勇猛に戦い続けたウィンブッシュの奮闘が、自らを見失っているチームに良いケミストリーを与えたと願いたい。