文=鈴木栄一 写真=野口岳彦

2001年の加入から常勝軍団を支え続けたキャリア

Bリーグ初代王者を目指し、ここまで西地区で首位を快走しているシーホース三河。昨シーズンまでの旧JBL、NBL時代から約15年以上に渡ってリーグ上位の成績を残し続けている常勝軍団である。

この栄光の数々は、古くは佐古賢一、後藤正規、外山英明、その後も柏木真介、竹内公輔に、そして現在の比江島慎、金丸晃輔など日本を代表するトッププレーヤーによってもたらされてきた。そして忘れてはならないのが、このすべての成功は、桜木ジェイアールの働きがあってこそという点だ。

2001年、ジェイアール・ヘンダーソンとしてアイシンに加入し、2008年に日本国籍を取得した桜木は、今季でチーム在籍16年目となる。一人の選手が16年も同じチームに在籍し、さらには中心選手であり続けることは本当に稀有な例だ。現在、Bリーグで活躍している選手たちの中でも屈指の国内トップリーグでのキャリアを誇る桜木が、どんな選手なのかを紹介していきたい。

「5歳の頃から父の影響でバスケットボールを始めた」と桜木は幼少期について語る。「他にもアメリカンフットボール、野球をやっていたけど、野球はバッティングがダメで続かなかった。そしてフットボールとバスケットボールを続けていく中、フットボールは危険で、特にひざを痛めてしまうと父にアドバイスされ、バスケットボールに専念するようになった」

そして、カリフォルニア州を代表する高校生プレーヤーとなった彼は、地元の名門UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に進学する。

UCLAでは、1年生の時から主力の一員として1試合平均で2桁に近い得点を挙げる。そしてこのシーズン、「大学時代で最も素晴らしい思い出であり、体験だった」と振り返る全米大学選手権での優勝を達成する。

その後もUCLAの中心選手として4年生まで活躍すると、1998年にドラフト2巡指名でバンクーバー・グリズリーズ(現メンフィス)に入団する。NBAでのキャリアはわずか1シーズン、30試合の出場のみに終わってしまうが、その後、欧州などでのプレーを経て、2001年に当時のアイシンへと加入した。

「最初は、日本にバスケリーグがあることすらよく分かっていなかった。その前まではずっとNBAなどアメリカ、もしくは欧州でプレーしていたからね。最初にチームからコンタクトがあった後、日本がどんなところなのかチャールズ・オバノンに聞いたんだ。素晴らしいリーグだと勧められたよ」と桜木。主にトヨタ自動車など日本で10年以上に渡ってプレーしたオバノンは、桜木にとってはUCLAで全米チャンピオンになった時のチームメートだ。

「20代の頃は得点ばかりを狙い、考えずにプレーしていた」

来日当初の桜木は、ここまで長く日本でプレーするとは考えていなかった。「いまだに日本でプレーしているとは、自分でも信じられない。そして一つのチームで16年目というのは、本当に稀な体験だと自分でも思うよ」

それが実現している要因としては、年齢を重ねても衰えない彼の能力に加え、鈴木貴美一ヘッドコーチとの良好な関係があってこそ。鈴木ヘッドコーチは1995年からチームを率いており、桜木にとって日本で唯一の指揮官。当然、絶大な信頼を寄せている。

「彼はプレーヤーズコーチ(選手目線に立ってくれるコーチ)なんだ。彼も現役時代、素晴らしい選手であり、自分を含めて選手の気持ちを常に考え、とても気にかけてくれている」と桜木は言う。鈴木ヘッドコーチは能代工業出身。高校時代から多くのタイトルを獲得し、日本代表にも選ばれた名選手だった。

桜木が今もトップレベルで活躍を続けてられているのは身体能力に頼らない高い技術と、冷静な判断力を兼ね備えているため。「20代の頃はとにかく走ってジャンプをして得点を取る、あまり考えずにプレーしていた。ただ、今はスマートにプレーできるようになった。そして、チームメートが自分のプレースタイルを理解し、助けてくれている。みんなオープンショットを多く決めてくれる。かつては自分でどんどん点を取りにいったけど、今は得点を狙いにいくというより、パッサーになっている」

実際、年齢を重ねるにつれ桜木は、持ち前の視野の広さと正確なパスさばきをよりレベルアップさせて、アシストを量産している。今季もアシストランキングで、富樫勇樹、五十嵐圭といった司令塔の選手とトップを争っている。また、味方へのパスが増えたとはいえ、巧みなフットワークからミドルレンジまで決めることのできる非凡な得点能力も健在。その結果、20代の頃に比べてプレーの幅が広がり、相手にとってより守りにくい選手となっている。

さらに精神面での成熟も見逃せない。かつての彼は、試合中のコンタクトプレーでファウルがもらえないことに対して冷静さを失い、審判へ抗議する場面もよく見られた。それは本人も認めるところだが、今ではそういったことも少ない。

「試合に勝つためには、勝利への強い情熱を持ってプレーしないといけない。しかし、若い頃の自分はその情熱が強すぎて、時に自分でコントロールできないことがあった。ただ、今はその情熱と冷静さのバランスがしっかり取れるようになっている」

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