「相手との戦いではなく、自分自身との戦い」
ペイサーズは今シーズンのサプライズチームで、インシーズン・トーナメントでファイナルへと進み、勝率5割以上を常にキープし、地元インディアナ開催のNBAオールスターではペイサーズの選手たちが主役を務めた。それでも、長いレギュラーシーズンを通して好調とはいかない。ペイサーズのような若いチームは特に、一度つまずくと立ち直るのに苦労する。そして、チームのパフォーマンスはしばしばエースの調子と足並みを揃えるものだ。シーズン前半に大活躍したタイリース・ハリバートンは、後半戦に入ってシュートスランプに喘いでいる。
1月上旬にケガをするまでのハリバートンは平均得点が20を超えていたが、左ハムストリングスの捻挫で1月後半を欠場。その後は相手の警戒が厳しくなり、ブリッツにダブルチームと常にディフェンスから何かを仕掛けられ、思うようなプレーをさせてもらえなくなった。ケガから復帰した後、彼が20得点を超えたのは22試合中6試合のみ。特にオールスター明けには3ポイントシュートが打っても打っても決まらなくなり、11月には46.7%だった成功率がオールスター以降は22%まで落ちた。
現地3月18日のキャバリアーズ戦、1点ビハインドで迎えた残り2分半から、ハリバートンは4本の3ポイントシュートを放つもいずれも決められず。残り12秒に決めれば1点差の3ポイントシュートを外した彼はコートに倒れ込み、コンタクトを受けていたのにファウルの判定がないことに苛立ちを隠せなかった。試合後には「こんなにひどいスランプは生まれて初めてだ。クソみたいな結果だよ」と吐き捨てている。
その翌日に彼は頭を冷やし、「正直に言うとイラついていた」と認めた。「負けるのは楽しくない。良いプレーができないと楽しくない。頑張っているけど結果が出ないとフラストレーションが溜まる」
「でも、バスケを楽しむという原点に立ち返りたい。一歩下がって、自分が今いる場所がどんなに素晴らしいか、僕の人生がどれだけ充実しているかを考えたい。今は苦戦しているけど、その苦しみの中に美しさがある。僕にできることは、ただもっと上手くなろうとすることだけ。今はチーム戦術で解決しようとはしていなくて、自分がシュートを決めきればいいと考えている。良いポジションに入ってシュートは打てている。あとは決めるだけなんだ。自分と相手との戦いではなく、自分自身との戦いだと思っている」
指揮官リック・カーライルはキャブズ戦の後、「パスをして走るべきところでドリブルが多すぎたり、相手が待ち構えているところに突っ込んだり。ウチはボールを動かさなければ勝てないチームだ」と苦言を呈したが、その翌日のハリバートンのコメントには満足したようで「ウチには素晴らしい選手たちがいる。一緒にプレーし、一緒に問題を解決すればいい」と語った。
そして3月20日のピストンズ戦、序盤は苦戦を強いられたものの前半を12-2のランで終えると、ハーフタイムを挟んで一気に突き放して122-103の快勝を収めた。ハリバートンは5試合ぶりの20得点を記録した。課題の3ポイントシュートは3本中1本成功と改善されたわけではないが、無理に3ポイントシュートを打たずに2点シュートを13本中9本と高確率で決め、アシストも9を記録。「ペイントを攻めれば攻めるほど、他のプレーも効率良く決まるようになる。シュートが好調だった時期はリムへのプレッシャーが掛けられていたと思うんだ。相手を受け身にさせること。それが大事だと思う」とハリバートンは言う。下位のピストンズが相手ではあっても、結果が出ることでメンタル的には楽になれるし、リズムもつかめる。
若いチームの躍進は勢い任せの部分もあるが、それだけでは長いシーズンは戦い抜けない。プレーオフになればまた違った難しさもある。ハリバートンを始めペイサーズの選手の多くにとっては未知の領域だが、「自分自身との戦い」を制することができれば、道はひらけるはずだ。