荒川楓

「点差の通り、全てジェッツさんのリズムでやらせてしまった試合だった」

3月16日、天皇杯ファイナルが行われ、初優勝を目指した琉球ゴールデンキングスは69-117で敗戦。攻守両方で千葉ジェッツにやりたいプレーを遂行され、文字通り全く良いところのない完敗を喫した。

この試合において琉球の数少ない見せ場は21-25と競り合った第1クォーター。そこで目立っていたのは控えガードの荒川颯だった。持ち味である激しく当たるディフェンスで、チームにエナジーを与えると、3ポイントシュートを含む5得点と攻守でインパクトを与えた。

シーズン序盤戦は出場機会も少なかった荒川だが、2月以降はローテーションの一員として安定した出場機会を得るようになっていた。それは牧隼利、小野寺祥太とガード陣に故障者が出ていたことも影響しているが、与えられたチャンスで桶谷大ヘッドコーチも高く評価するディフェンス面でしっかりと期待に応え続けた積み重ねによるものだ。小野寺と牧が復帰した今回のファイナルでも、第1クォーターの途中から起用されたように居場所を確保しつつある。この荒川の台頭は琉球にとって良い意味でサプライズだ。

これまでの荒川の歩みを振り返ると、プロ転向後はB2のライジングゼファー福岡、B3の横浜エクセレンスを経て、昨シーズンはレバンガ北海道に加入。初のB1でのプレーとなったが、22試合出場で平均6分半のプレータイムと成果を挙げられなかった。そして今シーズン、荒川は7月末に琉球に練習生として加入した。昨シーズンのリーグ下位に沈んだチームでローテーション入りを果たせなかった選手が、充実の選手層を誇る前年度王者のチームに加わり、プロ契約など居場所を勝ち取れるのか。そこには懐疑的な見方もあっただろう。だが、9月末にプロ契約を勝ち取ると、その後も着実に成長を続けることで出番を増やしている。

この背景を考えると、荒川が日本一を決める舞台で14分半のプレータイムを得て爪痕を残したことは、特筆すべき事象だ。しかし、彼はそこに満足することはない。「点差の通り、全てジェッツさんのリズムでやらせてしまった試合だったと思います」と試合を総括すると、自身のプレーについても「ディフェンスで前から当たって相手のリズムを崩すのが自分の役割ですが、今日の試合では流れを変えることが全くできなかったです」と厳しい評価を下した。

荒川楓

「キングスを背負ってプレーし、自分が流れを持っていけるように」

練習生からのステップアップについて聞くと、荒川は「どんな物事でもポジティブに考えられるようになりました。自分に起こっていることは、全て自分を良くするための出来事と捉えられるようになりました。そこは人間として成長できている部分です」と、自身の内面に起きた変化を語る。

もちろん今日の大敗には反省すべき点がいろいろとある。だが、どんな物事もポシティブに捉える荒川はこの悔しさをさらなる成長への糧にできると語る。「(富樫勇樹を抑えることができなかったが)富樫選手に流れを作らせないくらいのディフェンスができるようになれば、トップ選手の仲間入りができます。ポシティブに考えれば、富樫選手と(大舞台で)マッチアップできるところまで来ることができました」

そして、次のように前をしっかり向いている。「下を向いている暇もないですし、ここまで来たんだぞという思いです。キングスを背負ってプレーし、自分が流れを持っていけるように。遠慮なんてしていられないと楽しみな気持ちです」

また、荒川が強調するのは琉球への感謝だ。練習生からプロ契約、そしてローテーション入りと、居場所をつかみとったのは彼自身の努力によるものだが、「ディフェンスで評価されるなんて全く思っていなかったので、キングスに育ててもらったと思っています。今の恵まれた環境でやらせていただいていることに感謝していますし、もっと結果で恩返しをしていきたいです」と語る。

大きなショックとなる敗戦を喫した琉球だが、Bリーグは水曜日に再開と落ち込む暇すらない。ここから立て直しを図るためには、ディフェンス職人であり、ハンドラーとしても成長している荒川の貢献も必要となってくる。そして、ハングリー精神に溢れ、成長に貪欲な荒川の姿はメンタル面においてもカンフル剤として大きな効果をもたらすはずだ。