大きな目標を設定し、高いモチベーションで前進を
11月に来日したケヴィン・サットン氏(IMGアカデミー バスケットボール部門テクニカルディレクター)のインタビュー後編(前編はこちら)。後編ではコーチを志す人々や日本バスケ界のこれからについて聞いた。
――サットンさんは指導者としてNBAに多くの選手を輩出していますが、彼らに共通することはありますか?
ジョージ・リンチをはじめ、10人以上の教え子がNBA入りしました。リンチは高校時代に指導し、シクサーズでアレン・アイバーソンと共にプレーし、NBAのキャリアを10年以上積んだ選手です。彼らに共通しているのは人間性。ハードワークを続けられるチームプレーヤーで、いずれもキャプテンを任せられる選手でした。そして多くの選手が長期的なキャリアビジョンを持ち、与えられた才能に感謝し、他人を尊敬する気持ちを持っていました。
――コーチを目指す人にアドバイスを送るとしたらどんな言葉をかけますか。
今は、コーチになろうとする情熱があればSNSやインターネットでいろいろなことが調べられます。どんなコーチを目指すのか。どういった練習メニューをするのか。まず自分でやってみるという主体性が大事です。そして、バスケットIQを日々向上させてください。試合を見て、いろんなクリニックに参加してください。日本ではあまり多くないかもしれませんが、欧米では指導者講習会が多く開催されているので世界に出て学ぶのも方法です。コーチたちも大きな目標を設定しなければなりません。モチベーションを持って貪欲に進むことが大事です。
――日本の育成年代は、主に学校教師が競技の指導にあたり、指導に関するビジネス的な環境が整っていない印象を受けます。
アメリカでも高校バスケットのコーチは外部コーチより学校の教師が多いですよ。数学や化学を教えているような先生が、課外活動としてバスケットを教え、大学、プロレベルになってくると専任コーチとなるのが普通です。とはいえ、外部コーチとの割合は、日本より大きいかもしれませんね。金銭面の問題が解消されれば、日本でもアメリカのように職業としてコーチを普及させられるはずです。
――アメリカの大学スポーツのビジネス化は有名ですが、近年は高校もそうなってきていますね。
ビジネス化が加速している傾向を受けて、協会がルールを作りました。アメリカの高校生と大学生は、個人にスポンサーがつき、自身でブランドを立ち上げる権利を持っていて、一介の高校生にもエージェントがいます。他校に転校するのに移籍金を要する学校もありますし、奨学生として扱うところもあります。
ただ、個人的には日本がアメリカのようにビジネス化するのは反対です。学校の資金力で格差が広がるからです。高校と大学は、お金の関わりがない中でコーチと選手が人間関係を構築する場所であってほしい。人間性を育む環境が失われてはいけないんです。
――日本のバスケットが世界に対抗できるようになるにはどうすればいいと思いますか?
まずJBA(日本バスケットボール協会)がバスケットボール、選手、コーチの育成にコミットしなければなりません。最も大事なのはコーチの育成です。IMGではコーチを対象とした育成プログラムをスタートさせ、どうすれば理想のコーチ像に近づけるのかを研究し、外部機関の人にも意見を求めています。コーチと選手を同時に育てていくのは時間がかかりますが、コミットしながらやっていくのが一番だと思います。良いコーチング、良いチームを見たければ、アメリカのトップレベルの大学や高校が集まるラスベガスでのイベントに来るのも良いと思います。
ファンの皆様は自国の選手をサポートしてください。若い人が海外にチャレンジするなら応援してほしいというのが1番です。プロ選手では渡邊雄太選手、八村塁選手のような海外のトップレベルで頑張っている選手を応援し続けてほしいですね。