パスカル・シアカム

「愛情のこもった言葉をたくさんもらった」

パスカル・シアカムはラプターズからペイサーズへとトレードされ、初めて古巣に戻って来た。すでにペイサーズの選手としての出場は15試合目で、そのユニフォームに袖を通すことへの違和感は薄まっているが、対戦相手がラプターズで、しかもトロントでの試合となれば話は別。彼にとっては感傷的な試合となった。

試合前の選手紹介では、ペイサーズの他の先発4人の名前がコールされた後にアリーナ内が暗転し、ドラフト、優勝、オールスター選手といった彼の足跡をまとめたムービーが流された。彼の名前が呼ばれる時には、ラプターズファンは立ち上がって大歓声を送った。その中にはシアカムの名前と43番が入ったユニフォームも多数見られた。ファンだけでなくラプターズの選手やスタッフも、シアカムのこれまでの貢献を称える拍手を送っていた。

感動的なシーンではあったが、この時のシアカムは感情を抑え込むのに必死だった。「個人的な感情を持ち込まず試合に集中したかった。みんなが僕に『会えてうれしい』と言ってくれてうれしかったけど、僕は『勝たなきゃいけない』とばかり考えていた」とシアカムは言う。

「でも、難しいよね。よく知っている人の顔を次々に見るから、ここでのいろんなことが頭に浮かんできた。ここに来た頃の僕はただの子供だったし、ショップに行っても僕のユニフォームなんか売ってなかった。8年を過ごしたここに戻り、愛情のこもった言葉をたくさんもらった。観客席のどこを見ても僕のユニフォームを着たファンがいる。感謝しかないよ。僕にとってはすごく意味のあることだ。素晴らしい歓待を受けて、身が引き締まる思いだった。こんなに温かく迎え入れてもらえるとは想像してなかった」

両チームとも、これがNBAオールスター前の最後の試合。良い雰囲気でオールスターブレイクを迎えたいのは当然で、終盤までもつれる大混戦となった。その試合でシアカムは36分間出場し、23得点5リバウンド7アシストとラプターズ時代と変わらぬ攻守にアグレッシブなプレーを披露。1点リードで迎えた第4クォーター残り25秒には、アイソレーションでRJ・バレットのディフェンスをかいくぐり、勝利を決定付ける得点を挙げている。

ペイサーズを率いるリック・カーライルは「試合序盤は決して良い感じではなかったが、忍耐強くチームプレーをしていた。そして第4クォーターにはビッグショットを決めてくれた。彼のプレーには満足している」とシアカムについて語る。

シアカムを失って新体制となったラプターズも粘り強い戦いを見せた。トランジションからスコッティ・バーンズ、バレットが繰り出すアタックは強烈で、スピーディーなバスケが売りのペイサーズを相手にファストブレイクポイントで40-10と圧倒。リバウンドでも56-39と上回った。ただ、ベストに近いパフォーマンスを見せながら、終盤の勝負どころでフリースローが決まらず、オフェンスリバウンドを取ったところで慌ててしまいターンオーバーを犯すなど、アグレッシブではあったが未熟な部分も出てしまった。

試合終了のブザーが鳴ると、ラプターズの選手たちは次々とシアカムのところにやって来た。最初に言葉を交わしたのはインサイドでコンビを組んでいたヤコブ・パートルで、そ続いてバーンズとがっちり抱擁を交わす。この時のシアカムはプレッシャーから解放され、ただただかつての仲間たちと一緒にいられることを喜んでいた。

バーンズのオールスター初選出をシアカムは『兄貴』として祝福した。「スコッティの才能は練習で何度も何度も対戦してきた僕がよく分かっている。彼を誇りに思う。ただ、彼にとってオールスター選出は始まりにすぎないと思っているよ」