オーナー同士の交渉が行われるもレブロン本人が固辞
トレードデッドラインを前に、ウォリアーズはレイカーズに交渉を持ち掛けていた。長らくタイトルを争ったレブロン・ジェームズの獲得だ。これは『ESPN』のアドリアン・ウォジロナウスキのスクープによるもの。発端となったのはドレイモンド・グリーンで、彼のアドバイスを受けたウォリアーズのジョー・ラコブがジーニー・バスに連絡を取った。レブロンほどのビッグネームの移籍交渉となれば、オーナー同士のトップ会談が必要となる。バスはレブロンのトレードに乗り気ではなかったが、レブロン自身の意向を確かめた。その結果は「ノー」で交渉はまとまらず。ウォリアーズは移籍期限の直前にもう一度打診をしたが、その答えも「ノー」だったという。
トレード期限の1週間前には、レブロンがSNSに投稿した意味深な『砂時計』に触発されて、セブンティシクサーズのダリル・モーリー球団社長がレイカーズと接触した。ただ、この時はロブ・ペリンカGMに拒絶されて、交渉はすぐに終了した。ウォリアーズの打診はレブロン本人に届いたという点で、実現の可能性が少なからずあったと見ていいだろう。
いずれにしても、レブロンはいまだ移籍市場に強大な影響力を持っており、『砂時計』のツィート一つでウォリアーズとシクサーズを動かした。ただ、レブロンとそのエージェントがこの移籍に「ノー」の決断を下したのは残念だ。レブロンが今のレイカーズに満足していないのは間違いなく、『砂時計』がそれとは関係のない無邪気な投稿であるはずがない。
ウォリアーズに移籍し、ステフィン・カリーとコンビを組むことは、関係者全員がハッピーになれる選択だった。4年連続でNBAファイナルで対戦し、過去12シーズンのうち優勝8回を分け合っている2人が組めば、今は勝率5割ラインを前後しているウォリアーズは西カンファレンスの優勝候補へと一躍駆け上がる。レイカーズは新チームへと舵を切ることになるが、レブロンを放出する以上はジョナサン・クミンガに指名権と、チームを立て直すための資産を好きに選ぶことができた。レブロンとカリーは2人揃って、残りそう長くはないキャリアの円熟期を無駄にせず優勝争いに没頭できる。そしてリーグは、スーパーボウルが終わった後のスポーツ界の関心を独占できる。
両チームとも今は辛うじて勝率5割を保っているが、そんなチームがトレードデッドラインに大きなテコ入れもなく優勝できるかと言えば、答えは否だ。このリーグでそれを可能とするのはヒートだけで、それはレギュラーシーズンを通して無名の若手を鍛え上げる文化が確立されて初めて実現するものであり、スターパワーに頼る今のウォリアーズとレイカーズにその芸当は真似できない。
そう考えると、レブロンが平凡なチームでしかないレイカーズに残るという消極的な決断を下したのは残念だ。バスケットボール的な観点で言えば、ウォリアーズに移籍する上で彼のリスクは非常に小さい。契約は来シーズンまで残っているが、プレーヤーオプションとなっている最終年を破棄すれば今夏にフリーエージェントになれる。ウォリアーズが長くいるべき場所ではないと思えば、優勝を追い求める数カ月の後は自分の好きなチーム、あるいは息子ブロニーを指名するチームを選ぶことが可能だ。
それでも彼はレイカーズに残った。自身のトレード話とは別に、レイカーズがこのトレードデッドラインでディアンジェロ・ラッセルを始めとした主力を動かすべきかと首脳陣に問われたレブロンは「今のチームを気に入っている」と答えたそうだ。ただ、それは『消極的賛成』でしかないはず。レブロンはNBAの過去10年にない盛り上がりを作る機会をフイにしてしまった。それはすなわち、自分自身のキャリア晩年をフイにする選択だった、といずれ彼が振り返るものかもしれない。