アメリカ・フロリダ州に所在するIMGアカデミーは、バスケットボールをはじめ、テニスやゴルフなどでプロアスリートを数多く輩出してきた全寮制の寄宿学校。日本人としてはテニスの錦織圭や横浜ビー・コルセアーズの田中力らがここから巣立ち、バスケットボール選手としては2023年のNBAドラフト全体8位でウィザーズから指名され、現在はペイサーズに在籍するジャレス・ウォーカーら約20人のNBA選手を育てている。
同アカデミーのバスケットボール部門のブライアン・ナッシュディレクターとケヴィン・サットンテクニカルディレクターは、11月1日から12日にかけて来日し、小・中学生を対象としたクリニックを実施した。ナッシュ氏が強調するのは技術と人間性の育成の両立。試合を想定し、バスケットボールIQを高める必要性についても説いた。
「バスケットIQを磨く練習が全然足りていない」
――あなたが来日するのは今回が4度目ですね。
日本に来るたび、文化や人柄に魅了されています。バスケットボールクリニックにおいては、子供たちがすごくハードワークしますし、彼らの態度にいつも魅了されます。
——クリニックを通じて、日本の指導に足りないと感じることはありますか?
「練習すること」に重きを置いていると思いました。例えばコーンを使ったドリルはよくこなすけれど、試合の想定が全然できていません。バスケットIQを磨く練習が全然足りていないというイメージです。クリニック中は「Play live(実戦のようにプレーしよう)」と声を掛けました。IMGでも日頃から取り入れている声掛けで、試合を想定した状況判断をしよう、ドリルとして決められた動きばかりしないように意識しようという意味です。予想できない場面にどう対応するかで、プレーの習熟度が実感できます。
——クリニックが始まる前には、3つの約束事を選手たちに伝えていました。それぞれのねらいについてうかがえますか?
1つ目はエネルギッシュにプレーすること。コートでできるだけ多くのことを吸収して成長につなげたいからです。2つ目は細やかに耳を澄ますこと。細部まで集中する選手は、ゲームパフォーマンスが全然違います。3つ目は情熱を持って楽しむこと。情熱がなければうまくなることは決してありませんし、自分の意志で体育館に足を踏み入れることもできません。能力差につながる大きな要因です。
余談ですが、IMGでは私が役割に応じてコーチを配置しますが、採用基準は人柄です。先ほどの約束事と同様にエネルギー、努力、そして情熱。3つの要素が欠かせません。
——そして、クリニック中は情熱的にコーチングされていました。
コーチである自らがハッスルして情熱を示すことを心がけています。日本人はシャイな部分がありますから、より一層、自分たちが率先して例を示し、選手たちを引っ張ることを心がけました。MVPも決めます。重要なのは、私たちが求めている価値を見せてくれる選手です。聞く耳を持ち、学ぶことができる人。人柄が良く、他人を尊敬できる良いチームメートである人。そして、仲間が困難に直面した際に鼓舞したり、助けたりできる人です。
「『1人の才能』は『1つのチーム』にかなわない」
——プレーヤーを起用する際に重視するのは実力ですか? それともハードワークですか?
スキルや才能があっても、チームプレーヤーでありハードワーカーでなければ絶対に起用しない方針です。ハードワークでき、良いチームメートである選手は必ず伸びますし、彼らを集めたほうが総合的に良いチームになります。才能やスキルがあると思っている選手は、特別扱いされることが当然だと思っています。1人が特別扱いされ始めると、他の選手は絶対に気づきます。そうするとチームのバランスが崩れてしまう。「1人」に才能があっても、「1つのチーム」にはかないません。
——IMGでは、「人間育成」と「プレーヤー育成」の割合をどのように考えられていますか?
優先順位は選手起用と同様で、このバランスが非常に大事です。人間性に問題があれば大学で成功する確率は低くなります。IMGの理想像と言えるのが、ペイサーズにいるジャレス・ウォーカーです。高校時代の4年間をIMGで過ごしました。人柄が良く、良い家族に育てられており、15歳からリクルートしました。
——家庭環境も重視されるのですね。
(全寮制の)IMGでは多くの時間がコントロールされ、束縛されます。非常に厳しいしつけの中で生き残るためには、良い習慣を身に付けてなければいけません。そして、家族の理解が必要です。私たちには「家庭を信じろ」という言葉があります。家族の皆さんにはサポーターとなって、私たちコーチ陣を信じてほしいと思っています。【後編に続く】