崎濱秀斗

「優勝は115人が我慢した結果」

ウインターカップ決勝は福岡第一が4年ぶりとなる福岡大学附属大濠との『福岡決戦』を63-53で制した。ゲームキャプテンの崎濱秀斗はラインから離れた位置からの3ポイントシュート、滞空時間の長いプルアップジャンパーを沈め、好アシストも披露。18得点4アシスト7リバウンド2スティールをマークし、チームを日本一に導いた。左足骨折で出場を危ぶまれた今大会で、昨年準優勝に終わった雪辱を果たした。

崎濱は優勝へのカウントダウンが響く中、残り1秒でボールを両手で高く放り投げた。そして、仲間に向かって両拳を突き上げて喜びを共有した。「最弱の世代と言われ、最激戦区を勝ち抜いて優勝するなんてありえないことができました。この1年は昨年と違ってなかなか結果を出せなくて苦しみました。115人が我慢した結果、優勝できました。みんなに感謝したいです」

左足の骨折の影響で右足にも負担がかかっていた。序盤では左足首もひねっていたという。ボロボロになりながら優勝インタビューで安堵の笑みを浮かべた。開始直前のサプライズで肩の力が抜けたのかもしれない。4年前の福岡決戦を制し2連覇を成し遂げたOBの河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)が激励に来た。「福岡対決を意識せず自分たちらしくやったら絶対に勝てる」。

崎濱も「まさか、いるとは思っていなくて、みんな緊張していました」と目を丸くした。そのせいか、試合が始まれば硬さは見られなかった。序盤から攻守でエンジン全開。ドライブで初得点を挙げると、残り6分37秒にはステップバックスリーを決め、9-0のランで福岡大濠にタイムアウトを取らせた。

崎濱を欠いて臨んだ11月3日の福岡県予選は61-79で完敗していた。身長に勝る福岡大濠にインサイドを制圧された。今日の決勝は福岡大濠のビッグマン、渡邊伶音にボールが入ると素早くヘルプで寄り、自由にプレーさせなかった。第2クォーターにかけたプレスでは圧力をかけてターンオーバーを誘発。前半で13得点を挙げ、代名詞の速攻も演出。38-14で折り返し大勢を決めた。

今年10度目の対戦。手の内を互いに知り尽くしているライバルを称える。「大濠さんの存在なしでは今のチームも自分もない。タフな試合だったけど、東京体育館で最後に戦えてよかった」

崎濱秀斗

先輩、河村から金言「1分1秒も無駄にできません」

河村からはリハビリ期間でも金言をもらっていた。自ら連絡を取り、直接電話で教わったという。スマートフォンを手に取る時間を減らし、昼寝を取り入れて偏食があった食事も見直した。「先輩もワールドカップ前に故障されて、強くなって戻ってきました。トレーニングやリハビリをどのようにされたのか教えてもらいました。1分1秒も無駄にできません」

12月上旬に全体練習に本格復帰した際にプレーを見た井手口孝コーチも変化を感じ取っていた。「顔つきが変わっていたので、何かあったのかと尋ねたら、河村から助言を受けたと。男の顔になっていましたね」

エースの復帰で、チームがよみがえった。80点台の失点を重ねて課題を抱えていた守備も改善。指示を出し、ヘルプすることでコートにいる他の4人が相手との間合いを詰められるようになり、堅守を取り戻した。「秀斗の言葉は絶対なんです。誰よりも努力しているとみんなが認めているから」と話すのはシューティングパートナーの元行秋(もとゆき・とき)だ。元々シャイだった崎濱はキャプテン就任とともに発信力を高めていった。4月からアシスタントコーチを務める原田裕作も「間違ってもいいからどんどん指示を出していけ」と背中を押した。崎濱もインタビューで元行の名を出して感謝を伝えている。

「シューティングは誰よりもしている自信はあります。でも、自分一人ではできません。元行が朝5時半から付きっきりでリバウンドを拾ってくれました。自信が生まれたのは彼の力もあります」
復帰直後、シュートタッチは衰えていなかったが、脚力は戻り切っていなかった。キレを出すために元行がディフェンス役を務め、プルアップジャンパーの数を増やしたという。大一番となった準々決勝の東山戦やこの日の決勝でも随所に生きていた。

卒業後はスラムダンク奨学金を受けて、「日本一の高校生」として渡米する。IMGアカデミーでのワークアウトを経て9月からプレップスクールに通いNCAA1部の大学入学を目指す。「NBAに近いレベルでバスケをしたい。河村先輩は日本だけでなく世界で戦える選手になっています。あこがれているし、いつか超えたい存在です」

最終目標はNBA。違うルートで高みを目指していく。「決勝で何もできなかった」と、振り返る前回大会は準優勝に終わり、ショックの余り自力で立てなかった。ダブルキャプテンの山口瑛司に支えられて記念撮影を済ませたが、今年は2人で優勝の表彰台に立った。「自分が驚いていて、まだ実感がありません。115人の思いを背負ってそれをコートで表現できました。どこのチームよりも一番強い思いがあったので優勝できたと思います」。大会の主役は、満面の笑みを浮かべた。