堀田亨

コロナ禍で拍車がかかった「自分たちの体育館がほしい」という思い

——自前の体育館を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

体育館がほしいと思ったのは、『無限 NO LIMIT』を立ち上げて数年経った頃です。公共の体育館や学校の体育館などの施設は他団体と取り合いになって予約が取れないこともありますし、定期的に借りられたとしても使える時間が限られます。クラブを一緒に立ち上げた大学の先輩と「じゃあ、作ったらいいんじゃないか」、「いくらくらいするかな」と冗談ながらに話したところから始まりました。

この言葉がずっと自分の中でくすぶっていた状態で数年が過ぎました。クラブ生が5〜60人となり、フルコート2面の体育館が借りられても、同時に指導することが難しくなり、「これなら自分で体育館を持ったほうがいいんじゃないか」と思うようになりました。そして5〜6年前に、ウェア販売とスクール運営を主とする会社を立ち上げ、さらに数年経った時にコート貸し業をできないかと考え始めました。コロナ禍になったことで余計に「体育館を作りたい」という思いに拍車がかかったところもありますね。タイミングよく事業再構築補助金を受け、銀行の融資にも通り、今年5月に『X PARK1510(クロスパーク一期一会)』をオープンできました。

——オープンまでに一番苦労したのはどのようなことでしたか?

融資を受けるところですね。「なぜ民間で体育館を作らないといけないのか」ということを伝えるのに苦労しました。銀行からすると「お金を出して体育館を借りる人ってそんなにいるのか」というスタンスだったと思います。まず現状を説明しました。クラブチームがどんどん立ち上がって、体育館を借りたい団体はたくさんあるけど、ゴールデンタイムと呼ばれる午後5時から同9時までは取り合いになってなかなか借りられない。そして、クラブチームは場所がなければ教えられないからお金をかけるはずだし、僕らがその立場だったらそうするので需要は絶対にあると。このようなプレゼンを何件もの銀行にしましたね。

ある銀行からは「面白いですね。夢がありますね」と励ましていただきました。ある銀行からは「体育館を貸すだけの事業だと難しいので、テナントをつけて、家賃が固定で入ってくるようにしたらどうだろう」と提案を受けました。そういったご意見を参考にしながらプレゼンできたことが融資に繋がったと思います。同時並行でクラウドファンディングにもチャレンジしました。また、バスケ仲間の経営者から別の社長さんを紹介してもらい、社長業の哲学からお金を集める方法まで様々な助言をもらいました。自分自身、プロジェクトを始めてから人間が変わったというか、こんなに人って頼れるんだ、頼っていいんだなって思いましたね。今までは自分で全部やっちゃおうという人間だったのが、自分の殻が破れていって面白いなと感じました。

——出会いや絆が広がることに大きな喜びを感じられるようになったのですね。

素晴らしい人たちとの出会いが続いて、面白いように繋がって協力してくれました。体育館を建てた後も運営や経営を手伝ってくれる仲間がたくさんいます。本当に感謝していますし、それが一番の喜びです。

——ちなみに『X PARK1510』という名前の由来は?

クロスは「交差する」ということですね。『無限 NO LIMIT』のマークには、限界はないよという意味を込めてアルファベットのXがあしらわれているんですけど、このXに「人と人が交差する場所にしたい」、「コロナで失われた人との出会いをここで育んでもらいたい」、「公園みたいな場所になってほしい」との思いでクロスパークにしました。

そして当時、自分の中に「ロゴに数字が入っているとかっこよく見える」と思っていたので、語呂合わせを探して「1510」を加えました。一期一会って良い言葉だし、「151」まではバッチリだし、「0」は丸で円。人と人との縁が関わる円じゃんということで「一期一会」と読んでもらおうと。おじいちゃんおばあちゃんからお孫さんまで、いろんな人が集まって交流の場にしてほしい。バスケット中心の施設ではありますが、バスケットに関係のない人たちを巻き込んだイベントを開催して、いろんなことを発信していけたらいいですね。

——オープンしてから半年が経ちましたが、手応えはいかがですか?

プレオープンイベントとして、24時間コートを無料開放してバスケットを楽しんでもらった時は600人ほど客さんが来てくださいました。ただ、いざオープンしたら誰も来ないんじゃないかという不安もありましたし、実際オープン直後は本当に人が来ませんでした。特に平日昼間。9時から17時くらいまでの時間帯は、2〜3カ月間で平均で3〜4人くらいしか来てもらえませんでした。

今は、バスケットボールチーム以外にも、チアリーダーのスクールや子供の運動教室のようなスクール、フットサルチームなども利用してくださるようになり、定期で借りてくれる団体も貸し切り希望が増えてきました。私自身も練習試合や大会を開いて認知を広めていますし、今後はクリニックイベントも催したりして収益を上げていきたいです。

堀田亨

人生を終える時に「体育館を作っておけばよかった」と後悔するのは嫌だった

——ここまで行動に起こせた原動力は何だったのでしょうか?

体育館を作るプロジェクトを通じて思ったのは、「人生一度きり」ということです。ずっと踏ん切りがつきませんでしたが、人の生死を直視する中で、自分が人生を終える時に「体育館を作っておけばよかった」と後悔するのは嫌だと思いました。自分の人生だから誰にも邪魔されないし、自分で決断できる。バスケットをずっと愛して、普及しようと頑張ってきましたし、自分からバスケットを取ったらほぼ何も残らない。だから50歳を過ぎてから、バスケットに対して残りの人生を懸けてもいいんじゃないかなと思ったんですよね。自分で突き進んだ道だからそれはやり続けようと。

——堀田さんのように「体育館を作りたい」という夢を持っている方にメッセージをお願いします。

体育館を作りたいと思ったら、まずは見積もりや設計など実際に行動に起こしてみることです。考えすぎると頭の中で終わってしまうので、とにかく何かしらやってみたほうがいいと思います。指導の中で子供たちにも伝えるのですが、失敗するかもしれないけど「やってみろよ」と。そんな指導をしていたので、自分がやってみないことには始まらないと思いました。

何より、体育館づくりは人との繋がりありきだと思います。大きなプロジェクトを実行するのであれば人を大事にして、自分を大事にすることです。「人を元気にしたい」、「人と仲良くなりたい」と思っていれば、おのずと同じ思いを持つ人が集まってきます。今回も、自分がやることに対して共感してくれる人がたくさんいたし、自分の思いが伝わった部分は大きかったと思いますね。そして、最後にできるかできないかを判断するのは自分自身です。自分が本気なのかどうかっていうところを自問自答してもらったほうがいいと思います。