バンブリートは3年1億3000万ドルでロケッツと契約
NBAでは戦力均衡ルールが厳密に定められている。サラリーキャップやドラフトといったルールは、大都市を本拠地とする人気チームや大富豪のオーナーを持つチームがリーグを支配することなく、30チームすべてに勝つチャンスが得られるリーグを実現するためのものだ。
しかし現実には、毎年優勝とは言わないまでもコンスタントに上位進出を果たすチームと、万年下位のチームが存在する。選手の力で勝てるのは1年か2年だけ。NBAで長く強豪であり続けるには、戦力均衡ルールを理解し、逆手に取って活用しなければならない。逆に、ルールの意味を理解しないまま場当たり的な判断を下していれば、チーム編成でライバルに遅れを取り続けてしまう。
一つ確かなことは、『変化できる者が生き残る』だ。トレイルブレイザーズは長らくデイミアン・リラード中心のチームであり続けたが、チームのサイクルが終わりに向かっている現実を直視せず『変化』に踏み切れず、リラードにトレード要求を突き付けられた。
そして今、ラプターズも厳しい状況に追い込まれている。球団史上初のNBA優勝から4年、指揮官のニック・ナースがチームを去った。彼は自らが育て上げたチームのサイクルが終わったことを数カ月前に悟り、モチベーションを失っていた。その時点でフロントは再建に舵を切るべきだった。
フロントはバンブリートが新契約を結んで残留すると期待していたのだろうが、『ナース以後』の明確なビジョンを示せないチームに彼が残ることはない。フリーエージェントの交渉解禁初日に、彼は3年1億3000万ドル(約180億円)でロケッツと合意した。
2月のトレードデッドラインでバンブリートを放出すべきだったのに、変化に踏み切れなかった。数カ月後にフリーエージェントになる選手にどれだけの見返りが得られたかは微妙ではあるが、再建に役立つ何かは手に入れられる。その機会を逃したフロントの消極的な姿勢は、他の選手にも不安を与えたはずだ。
『The Athletic』は、ラプターズがドラフト当日、1巡目3位指名のスクート・ヘンダーソン獲得に動いたと明かしている。遅ればせながらバンブリートが残らないことに気付き、再建を託すポイントガードとして彼に狙いを定め、3位指名権を持つブレイザーズにパスカル・シアカムとのトレードを持ちかけたのだが、これはブレイザーズに断られた。
話はそこで終わらない。ブレイザーズでは、これを伝え聞いたリラードが補強の機会を見過ごしたフロントにいよいよ愛想を尽かし、トレード要求に至った。そしてシアカムもラプターズのやり方に不満を持った。来オフにフリーエージェントとなる彼は、今オフあるいは来シーズン中にトレードされても、トレード先のチームでの契約延長には応じないとエージェントを通じて情報を流した。これで他のチームはシアカムを獲得するにしても、すぐに退団するリスクがあるのだから、条件を引き下げる。こうしてシアカムは自分の移籍にまつわる状況をある程度はコントロールできる。
ラプターズとしてはバンブリートに出て行かれた上に、シアカムという資産の価値を目減りさせてしまった。OG・アヌノビーも来オフにフリーエージェントになるが、この流れで彼のラプターズへの信頼が揺らがないとは考えづらい。
2月にラプターズはヤコブ・パートルをトレードで獲得している。パートルは良い選手だが、来年のドラフト1巡目指名権とのトレードだったのは、再建チームとして最悪の判断だったと言わざるを得ない。
バンブリートがラプターズを裏切ったわけではない。彼は自分自身のキャリアを切り開くために戦い、ドラフト外の選手としては『超大型』の契約を勝ち取った。そしてロケッツは、ジェームズ・ハーデンがなかなか決断を下さない状況で、次善の策であるバンブリートへとターゲットを変えて補強に成功した。
スコッティ・バーンズをポイントガードに置き、ギャリー・トレントJr.とOG・アヌノビー、パスカル・シアカム、ヤコブ・パートル。シックスマンにはフリーエージェントで獲得したデニス・シュルーダーが入る。机上の計算では、来シーズンのラプターズにもそれなりの競争力はあるが、シアカムのトレードを機に今度こそ再建に舵を切ることになりそうだ。
すでにシアカムはトレード市場のビッグネームとなっており、前述の理由により得られる見返りは限られたものになるとしても、バンブリートに続いて見返りなしで出て行かれるよりは良い。ラプターズは『変化』を選択できず、『変化』へと追いやられた。好材料の少ない中で再建をスタートさせる今こそ、戦力均衡ルールをハックして上手く立ち回れるように彼ら自身が『変化』すべき時だ。