ニコラ・ヨキッチ

ナゲッツを止められなかったレイカーズ、ヨキッチを止められなかったヒート

NBA初優勝を飾ったナゲッツは、プレーオフを通して他を寄せ付けない強さを見せました。相手チームからすると、ナゲッツに、特に二コラ・ヨキッチに対して有効な対策を見つけられないプレーオフでした。ナゲッツと対戦したチームがどのような対策を取ってきたのかを振り返ってみましょう。

ツインタワーを擁するティンバーウルブズは、2人を交代でヨキッチとマッチアップさせました。ディフェンスが売りのルディ・ゴベアと、ディフェンスに難があるとされるカール・アンソニー・タウンズですが、意外にも効いていたのはタウンズで、3ポイントラインの外までプレッシャーをかけて、ヨキッチからの展開を抑える形が機能しました。ゴベアはヨキッチにアウトサイドまで引き出されてもボールにプレッシャーをかけず、空いた裏のスペースへパスを通されたり、3ポイントシュートを射貫かれました。

タウンズだけでなく、プレーオフでヨキッチを苦しめたのはバム・アデバヨやレブロン・ジェームズといった自分よりも小さい選手が積極的にプレッシャーをかけてくる守り方でした。ナゲッツのオフェンスはオフボールの連動に優れていますが、動き回る選手を捕まえるよりも、起点のヨキッチを潰しに行くほうが効果的でした。

実際、レギュラーシーズンにはラプターズのOG・アヌノビーがパスもドライブも止めており、ヨキッチへの対応としてはフィジカルに戦えるウイングが最も可能性を感じます。センターがヨキッチを守ると、ゴール下にスペースを空けてしまうデメリットが大きく、それを避ける意味でもウイングの選手がヨキッチに付く方が良さそうです。

ディアンドレ・エイトンをヨキッチにマッチアップさせたサンズは、ケビン・デュラントを空いたゴール下のスペースを埋めるヘルプ役とし、ドライブやカットプレーを止めにいきました。この形は一定の効果を発揮しましたが、デュラントの負担が攻守に大きすぎたことと、ヨキッチに強かったはずのエイトンが1on1を止められない誤算がありました。それでもエイトンが欠場した第6戦は25点差の大敗を喫しており、完全に抑えられないまでもヨキッチを個人で守れる選手の重要性が示されました。

スクリーンとポジションチェンジを繰り返し、次々にカットプレーを仕掛けるナゲッツへの対策としては、連携を分断することを最優先し、ヨキッチの個人技アタックには人数をかけないで守るのがセオリーです。ダブルチームを仕掛ければ簡単にパスをさばかれてイージーシュートのチャンスを作られてしまうことを考えると、ヨキッチに1on1をやらせて、少しでも難しいシュートを打たせた方が得点にならない確率は高くなります。唯一、このセオリーに反してヨキッチに人数をかけたのがレイカーズでした。

八村塁がヨキッチのマークを担当し、アンソニー・デイビスがヘルプで寄ってくる形は『ヨキッチ対策』としては機能し、またゴール下へパスが出てもデイビスのリムを守る威圧感がシュートミスを誘いました。しかし、接戦が多かった割にナゲッツはオフェンスに困ることがなく、レイカーズとのシリーズが最も高いオフェンスレーティングを記録し、4勝0敗のスウィープで終わらせています。ヨキッチに人数をかけるのは『ナゲッツ対策』としては苦しいものがありました。

NBAファイナルではヒートが第2戦でヨキッチに41得点を奪われながらも勝利しました。ヨキッチを止めるよりも周囲との連携を分断する戦略が成功したわけですが、第3戦で同じ守り方を続けても効果が出ず、ヨキッチとジャマール・マレーの2人にトリプル・ダブルを記録される結果となりました。ヒートの場合はアデバヨが個人でヨキッチを守れる利点はあったものの、逆にアデバヨがヨキッチに集中すると、マレーのアタックに対するリムプロテクターが足りなくなり、ツーメンゲームに対応できないままファイナルが終わってしまいました。

結局のところ、ナゲッツ対策のセオリーはあるものの、明確な答えは出ませんでした。試合ごとに戦略を変更するヒートは最も可能性を感じさせたチームでしたが、どの戦略を採用してもナゲッツにアジャストされてしまったのも事実です。

昨シーズンのプレーオフでナゲッツを倒したウォリアーズは、ディフェンスが機能したというよりハイペースの乱打戦に持ち込んで打ち勝った形でした。優勝したことで今オフの間にナゲッツの分析が進むことになりますが、効果的な守り方が見つかるのか、それともディフェンスで対抗するのはあきらめてオフェンス勝負に持ち込むべきなのか。さっそくサンズがブラッドリー・ビールを獲得したことを考えると、後者を採用するチームの方が多そうです。