ニコラ・ヨキッチ

「エンビードが受賞すべきだったと僕は思っているよ」

ナゲッツは球団史上初となるNBAファイナル進出を果たした。チームを牽引するニコラ・ヨキッチは、このプレーオフで29.9得点、13.3リバウンド、10.3アシストの平均トリプル・ダブルを記録。直近の2年連続でシーズンMVPを獲得したが、今はその2年をはるかに上回るパフォーマンスを発揮している。

そうなると比較されるのが、今シーズンのMVPとなったジョエル・エンビードだ。リーグトップの33.1得点に加えて10.2リバウンドを記録し、セブンティシクサーズを東カンファレンス3位に導いたエンビードは、過去2シーズンはヨキッチに次ぐ2位だったが、今シーズンは100人中73人の1位票を集め、1位票が15票だったヨキッチを大きく上回って初のシーズンMVPに輝いた。

この時は誰もがエンビードのMVPに異議を挟まなかったが、受賞が決まった直後からシクサーズは失速。セルティックスとのカンファレンスセミファイナルはGAME7までもつれたが、その大一番でシクサーズはブローアウト。エンビードもわずか15得点と本来のプレーとはほど遠い出来だった。敗退が決まった後には「僕とジェームズ(ハーデン)だけでは勝てない」と発言して批判されてもいる。

一方でヨキッチのすごさはプレーオフが進むにつれて際立っていく。長年同じコアメンバー、同じスタイルでプレーを続けているナゲッツの見事に息の合った攻守の中心にヨキッチはいて、高さと強さ、上手さだけでなく相手の対策を次々と上回っていくバスケIQが光った。

『相手の対策を上回る』という点において、ヨキッチはエンビードのはるか上を行く。それを目の当たりにしているからこそ、多くのファンが「MVPはヨキッチが受賞すべきだった」と言う。

しかしヨキッチは、NBAファイナル進出を決めた後の会見で「エンビードが受賞すべきではなかったとの意見は意地悪だ」と語り、エンビードを擁護した。「彼が受賞すべきだったと僕は思っているよ。シーズンを通してすごく良いバスケをしていた。彼は素晴らしかった」

MVPを巡る議論が過熱していたシーズン終盤、ヨキッチは何度も「MVPのことは意識していない」と繰り返していた。それでもメディアとファンが様々な論争を繰り広げることが、彼にとっては重荷になっていたようだ。ナゲッツを率いるマイケル・マローンはこうボヤく。「ニコラがそう言ったことはないが、私はMVPレースのネガティブな雰囲気が彼を苦しめていたと思う」

当時を振り返ると、ヨキッチについて「スピードがない」だとか「ディフェンスができない」という批判が出ていた。それは彼のパフォーマンスを見ての感想ではなく、MVPに誰が相応しいかの議論においての、ヨキッチ以外を推す人たちの意見だ。

ヨキッチは今シーズンもMVPに相応しいプレーを見せていたが、ナゲッツは3月に入ったあたりで西カンファレンスの第1シードをほぼ確実なものとし、シーズン終盤はコンディション調整を優先させた。ジャマール・マレーにマイケル・ポーターJr.と、大ケガを経験した選手を主力を据えているナゲッツにとっては当然の選択で、それでレギュラーシーズンのラスト1カ月で7勝10敗と負け越した。ここでMVPレースはエンビードが上回ることになったが、ヨキッチはそこに理解を示している。

3年連続MVPが実現すればラリー・バード以来で、マイケル・ジョーダンもレブロン・ジェームズも達成していない快挙だったが、ヨキッチが欲しいのはプレーオフでの勝利であり、NBA優勝だ。シーズンMVPではなくプレーオフMVPが欲しい。これがヨキッチの偽らざる心境だろう。