ビクター・ウェンバンヤマ

ロッタリーは運頼みでも、ここから先の仕事は運頼みであってはならない

スパーズがNBAドラフトの全体1位指名権を得るのはこれが3度目のこと。最初は1987年のデイビッド・ロビンソン、2番目は1997年のティム・ダンカン。2人とも長らくスパーズを支える看板選手となり、バスケットボール殿堂入りを果たした。

今回スパーズが指名するであろう逸材は「レブロン・ジェームズ以来」と評されるビクター・ウェンバニャマ。成功を約束されたタレントを引き当てたことでスパーズとその周囲は沸き立っている。スパーズのCEOを務めるピーター・J・ホルトは「我々の未来はすでに明るかったが、今それは月を飛び越した」と興奮を隠せなかった。

それでも、ロビンソンもダンカンもすぐに優勝を勝ち取ったわけではない。ロビンソンの最初の優勝は1999年まで待たなければならなかった。これはダンカンのキャリア2年目のシーズンだ。

ロビンソンはドラフト指名を受けた後、海軍で2年を過ごしたためにNBAデビューは1989年まで遅れた。この時のスパーズには3位指名のルーキーであるショーン・エリオットがいて、テリー・カミングスもトレードで獲得しており、勝つための戦力は整っていたはずだったが、それでも優勝までには長い年月を要した。

ダンカン加入時も戦力は整っていた。直前のシーズンはケガ人続出で大不振に終わったものの、3年前には62勝、2年前には59勝を挙げたチームの基盤があった。就任間もないグレッグ・ポポビッチは、その基盤を生かして1999年にスパーズにとって初のNBA優勝を勝ち取っている。

今のスパーズにも基盤はあるが、若手ばかりで成熟度が足りず、優勝するにはそのために必要な『プロセス』を一歩ずつ踏んでいく必要がある。スパーズのブライアン・ライトGMは「我々のチームは非常に若い。それが現実だ」と語る。「2年目、3年目、4年目、5年目で選手は変わってくる。それを理解する忍耐力がこれから求められる」

ウェンバニャマが来るだけで全国的な注目を集めることはできる。だが、それだけで終わったらスパーズにとっては歴史的な失敗となる。ライトGMの仕事は勝てるチームを作ること。しかも1回優勝するだけではなくNBAファイナルに何度も何度も進むチームを作ることだ。

彼はそれを理解している。表に出ることを望まない彼は、ロッタリー抽選会で壇上に立たず、1位指名権を引き当てた時にも拳を小さく握っただけだ。彼は大袈裟に喜ばなかったことを「他の13チームの仲間へのリスペクトであり、仕事はまだこれからだという気持ち」と説明している。ロッタリーで1位指名権を得られるかどうかは運頼みでも、ここから先の仕事は運頼みであってはならない。彼はポポビッチと意見交換をしながら、今後の何年かを見据えたチームを作っていく。

今シーズンの主力選手の多くが来シーズンも契約を保証されているが、それでもなおキャップスペースには4000万ドル(約54億円)以上の空きが出る。しかしスパーズは大物フリーエージェントの獲得競争には加わらないと見られる。

今オフの注目フリーエージェントはジェームズ・ハーデン、カイリー・アービング、ラッセル・ウェストブルックにドレイモンド・グリーンといったところ。強力なタレントではあるが個性が強すぎ、その選手を中心としたチーム作りを求められもする。ロケッツが1位指名権を引き当てれば、ハーデンとウェンバニャマのコンビで勝負に出ただろうが、スパーズにそのやり方は向かない。

トレ・ジョーンズとデビン・バッセルのバックコート・コンビと新たな契約を結び、フリーエージェントで迎え入れるのは、NBAキャリア5年目の今シーズンにスパーズからレイカーズに移籍して大きな成長を見せたロニー・ウォーカー四世のような伸びしろのある中堅だろう。育てるのはウェンバニャマだけでなくチーム全体なのだ。

おそらくスパーズは2023-24シーズンも2024-25シーズンもNBA優勝にはこだわらない。しかし、1年ごとにチームとしての着実なステップアップをシビアに追い求めるだろう。それは老将ポポビッチにとって、再び血をたぎらせる挑戦となる。