インカレ

文・写真=泉誠一

3年生や2年生が『豊作の世代』、では4年生は?

大学日本一を決める「第70回全日本大学バスケットボール選手権記念大会(以下インカレ)」が連日熱戦を繰り広げている。なかなか平日に会場へ足を運ぶことはできない方が多いかとは思うが、バスケットLIVEでも配信されており、目にする機会が増えた。できればNCAAトーナメント『マーチマッドネス』同様に、仕事中に見ていてもすぐ回避できるよう『ボスボタン』の設置もぜひお願いしたい。

インカレ取材時、ヘッドコーチの話を聞けば必ずと言ってよいほど「4年生の力が大きかった」という答えが返ってくる。大学最後の試合となる最上級生へ向けた労いの言葉という意味合いだけではなく、その活躍を見ても大きな存在であるのは間違いない。1回戦で敗れた東海大学札幌キャンパスの岸本剣介ヘッドコーチも、「最後にフロアに立っていたのはやっぱり4年生でした」と全幅の信頼を寄せて送り出していた。

指揮官が声を揃えるならば、4年生が多いチームが必然的に強いのではないか。逆になぜ4年生5人を先発に据えるチームが増えないのか、と素朴な疑問を抱いた。今年出場する32校のうち、最大15人ベンチ入り可能なメンバーの中での4年生は平均4.2人であり、3割に満たない。

この世代はゴンザガ大学で活躍する八村塁を筆頭に、U17やU19ワールドカップを経験した3年生や2年生が豊作の世代である。1年生もまた(良い意味で)生意気な選手が多い。こうなると4年生が少々見劣りしてしまうが、出場校の中で一番多い7人全員をロスターに揃えてインカレに臨んだ東海大学札幌キャンパスのケースから見ていこう。

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若きヘッドコーチを支える頼もしき4年生

「今年の4年生たちは、今シーズンになってから伸びた選手がほとんどでした。これまでベンチに入ることさえできなかった選手もいましたが、それでも腐らずに努力し、与えたチャンスで爆発してくれました」と岸本ヘッドコーチは語る。

実際、昨年はロスター外だった松谷大輝もしっかり名を連ねている。東海大学札幌キャンパスには奨学金制度がなく、リクルートもできない。「どう工夫をしながら戦えるチームを作っていくか、それに尽きます」と入部してきた選手たちと真っ向から向き合い、インカレで勝てるチームへと成長させている。

3年連続5回目の出場だが、「鍛えているという感覚はなく、チームを強くしたいという思いに対し、選手たちが自主性を持って取り組んでくれているだけです」というのが、岸本ヘッドコーチの方針だ。選手とのコミュニケーションを大事にし、特に4年生にはヘッドコーチから意見を求める機会も頻繁にあったそうだ。若きヘッドコーチをコート内外で支える力となった4年生の存在は大きく、7人全員が必要だったのも納得である。

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一度落ちても這い上がってくる選手を重要視

網野友雄ヘッドコーチは白鷗大学で就任2年目。自らリクルートしたのは1年生だけであり、本格的に自らのスタイルにチームを染め始めたばかり。それでも「4年生の力は重要視しています」と言い切る。2年次にはBチームだった長島蓮をスタメンで起用しているのもその現れだ。

網野ヘッドコーチは常にチャンスを与え、「こちらが打ったものに対し、しっかり跳ね返してくる選手」を求めている。上級生たちにとっては、在学中の指揮官交代は予期しなかったことかもしれない。それに対し、元日本代表でもある網野ヘッドコーチだからこそ、その経験をもとに持論を説く。

「バスケを続けていくにはいろんなコーチから教わらなければなりません。その時にいかに貪欲に学び、自分を柔軟に変えることができるか。もちろん自分の中で譲れないものを持っていても良いです。でも、それ以上に何かを得ようとすることが大事です」

大学時代は強豪校の日本大学で活躍した網野ヘッドコーチだが、バスケと出会ったのは高校からで、トップレベルとしては遅いスタートだった。それゆえに苦労は実体験として、今いる選手以上に把握している。努力してきたからこそ、ロスターに入れない選手たちにもチャンスを与え、その成長を見逃さないように目を配る日々だ。長島のように這い上がってくる選手がおり、今、プロとして活躍する選手も輩出できた。

「茨城ロボッツにいる須田昂太郎は3年生までBチームでした。大学バスケの分岐点は2年生であり、その後の活躍は決まってしまう部分もありますが、3年生や4年生でも遅くはないし、あきらめてほしくないです」

ただ、今の学生たちには満足していない。それも自身の経験が物語っていた。「100%、僕の学生時代の方が努力していました。今の学生を見ていても、それだけは自信があります!」

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失敗を糧に、次の年につながるバランスも大切

関東大学リーグ2部から昇格し、しっかり1部に留まった神奈川大学の幸嶋謙二ヘッドコーチは強化、育成に定評がある。11人いる4年生のうち6人をロスターに入れ、2年連続インカレに挑んでいる。「ディフェンスルールを細かく指導しているため、それを把握するのに1~2年かかってしまいます」と時間をかけて神奈川大学のスタイルを徹底していた。2年生の小酒部泰暉は昨年から活躍しているが、ディフェンスルールを把握していなかった1年次は十分なプレータイムを与えられていない。

チームディフェンスを理解した3年、4年になって花が開き、コートに立てるメンバーは自ずと増えていく。反復練習が欠かせないハビットスポーツのバスケにとって、長く練習してきた4年生こそヘッドコーチの目指すバスケを体現できる存在だ。時間をかけて育成するスタイルの幸嶋ヘッドコーチだが、「バランスも考えています」と言う。1年~4年までの人数をバランス良く配分することで、次の年へとスムーズにそのスタイルを繋げることができるのが要因だ。それも、自ら痛い目に遭った経験によるものでもあった。

「一度、4年生5人をスタートで起用した年がありましたが、次の年に3部に落ちてしまいました。そこからは次の年を見据え、バランスは考えながらメンバーを選んでいますが、やっぱり難しいですね」

バランスは必要だが、4年生が増えることはチームにとってプラスであると、3人のヘッドコーチは声を揃える。3年生に有望な選手が多いだけに、来年はスタメンが全員4年生というチームも出てくるかもしれない。

中学や高校よりも長い4年間の大学で、選手を成長させるのがヘッドコーチの醍醐味でもある。今ではBリーグを『就職先』として視野に入れる4年生も増えてきた。集大成となるインカレで思いっきりバスケを楽しみ、身体に染み込んだものをすべて出し切ることで、今後の進路が変わる可能性だって十分にある。ガンバレ、4年生たち!