ジミー・バトラー

文=神高尚 写真=Getty Images

両チームとも新加入選手を活用し成績を上げる

ジミー・バトラーがティンバーウルブズからセブンティシクサーズにトレードされて以降、両チームは上昇曲線を描いています。お互いにメリットがあるトレードとなりましたが、それぞれが改善した内容は対照的で、チームを構成する面白さも難しさも感じられます。

バトラーはシクサーズに加入して平均得点が3.2点下がったものの、フィールドゴール成功率が上昇しました。その要因はアウトサイドから打つことが減り、より堅実なシュートチョイスが可能になったことで、フィジカルの強さとファウルされても粘り強く決めるインサイドでの強みがより鮮明になっています。3ポイントシュートは確率こそ45%と好調ですがアテンプトが1.7本減り、必要な時に打つようになっています。

ジョエル・エンビートとベン・シモンズとの共存が注目されますが、バトラーにとって大きかったのはむしろJJ・レディックやランディ・シャメットといったシューター陣と、3&Dとして機能するウィルソン・チャンドラーやマイク・ムスカラの存在で、シューターがいなかったウルブズよりもインサイドでのプレーが楽になりました。特にシャメットはバトラー加入後に3ポイントシュート成功率が50%まで上昇しており、インサイドで引きつけるバトラーの加入が機能性を増したと言えます。

パサータイプのシモンズとの相性が悪く思えたバトラーですが、むしろシクサーズは2人を同時起用することを前提にしており、バトラーのプレータイム32.8分のうち30.8分でシモンズと同時にコートに立っています。これはエンビートのいない時間にインサイドを2人で攻め込む形を採用し、そこにシューター陣を絡ませてシモンズのパス能力を生かす狙いです。移籍後にアシスト数もリバウンド数も減ったバトラーですが、オフェンスリバウンド数だけは伸びており、シクサーズはエンビート不在時のインサイドが安定してきました。

その結果、バトラー加入でオフェンス力が向上することになり、平均得点が3.5点、フィールドゴール成功率が3ポイント改善しました。シクサーズはシーズントータルではリーグ平均を上回るディフェンス力を発揮していますが、対戦相手との相性に左右されやすく、良い試合と悪い試合が明確に分かれます。それが勝率にも響いていましたが、バトラー加入によりディフェンスが機能しない試合でもオフェンスで打ち勝つようになりました。加えてゲームウィナーとなるシュートを決めるバトラーの勝負強さで接戦を制する確率も高まりました。バトラー加入効果がオフェンスで大きな成果を発揮しているのがシクサーズです。

一方でウルブズは、急激にディフェンス面が改善しました。トレード後は平均失点が17.5点も下がり、5勝9敗だった成績がトレード後は6勝3敗と盛り返しています。キーになっているのはトレードで加入したロバート・コビントンで、ディフェンス面でバトラー以上の貢献度を発揮しています。

対人での強さがあるバトラーですが、ケガの影響かオフボールで振り切られるシーンが多く見られたのに対し、昨シーズンのオールNBAディフェンスファーストチームに選ばれたコビントンは、ボールのないところでの貢献度の高さが光ります。相手のパスに手を伸ばして触れたり、ルーズボールに反応したり、ハッスルプレーでチームを助ければ、ディフェンスリバウンドを多く抑え、ウルブズのインサイドディフェンスは強化されました。

加えてスモールフォワードをコビントンが担当することで、アンドリュー・ウィギンズが守る相手はガードとなり、高さと運動能力でこれまでよりも守りやすくなりました。もともとウィギンズのディフェンス面の課題は、ヘルプやリバウンド、ブロック能力の低さにあり、個人を守るウィギンズとチームディフェンスに貢献するコビントンのコンビが機能するようになりました。トレード前に50.5点でリーグ25位だったペイント内失点は、トレード後に限ればリーグ最高の40.4点まで減少しています。

ディフェンスリバウンドを強化に貢献しセカンドチャンスを許さなくなった一方で、バトラーと違いオフェンスリバウンドへの参加が少ないコビントンですが、ウルブズはタージ・ギブソンや新加入のダリオ・サリッチをパワーフォワードで起用しており、コビントンのトランジションディフェンスも失点が大きく改善した要因の一つです。ガード陣のドライブが多いウルブズのオフェンスなので、そんな時に早く戻って速攻を未然に防いでいます。

個人スタッツではバトラーに大きく劣るコビントンですが、スタッツで見えない部分での貢献度が高くチームバランスが急激に改善しました。試合終盤にビッグマンをカール・アンソニー・タウンズだけにするスモールラインナップの起用も可能になっています。トレードによってウルブズのオフェンス力は低下しましたが、コビントン加入後にはリーグ最高クラスのディフェンスチームになっています。

トレード後に勝率を上げたシクサーズとウルブズはどちらもインサイドの強化とチームバランスの調整がポイントになりましたが、オフェンスのシクサーズとディフェンスのウルブズで改善した内容は対照的です。

ここまではトレードが良い方向に出ていますが、シクサーズはマーケル・フルツの離脱などチーム内に変化が出てきており、ロスター変更も考えられるため、好調なシュートが継続するかが課題です。ウルブズはディフェンスが改善した一方でオフェンス面は苦しんでおり、毎試合のように違うオフェンスパターンになるなど、方向性が見えてきていません。ともにトレードによるショック療法でモチベーション向上したことが機能している側面もあり、今後は課題に向き合っていくことが必要になります。