ケビン・デュラント&カイリー・アービング

ネッツが手に入れたのは、いかにも『WeGoHard』な選手たち

2019年のオフにケビン・デュラントとカイリー・アービングがやって来て3年と半分。ショーン・マークスとケニー・アトキンソンが築き上げた『ブルックリン・ネッツ』を次々と壊した挙句、スーパースターは去っていった。度重なるケガとオフコート問題、2人が同時に出場した試合数はわずか74で、プレーオフを含めても88試合。それにもかかわらず勝てなければトレードを要求し、勝ち始めたと思えば契約への不満でトレード要求、である。

スター不在と言われながら、ディアンジェロ・ラッセルを中心にプレーオフへと進んだライジングチーム。そんな勝ち馬に乗っかりたくて後からやってきた2人。そのスーパースターに追い出されるようにラッセルとアトキンソンはネッツを去った。翌年には仲良しこよしで優勝したいとジェームス・ハーデンを迎え入れるために、ジャレット・アレンもキャリス・ルバートもロディアンス・クルークスも、加えて大量のドラフト指名権を放出した。その1年後にハーデンはネッツから出ていくことを望んだ。NBAで最高のケミストリーを持っていたはずのネッツは、スーパースターが来てからオフコートの問題だらけのチームに転落した。

アトキンソン時代から唯一チームに残っていたジョー・ハリスにとっても酷い変化だった。複数のスクリーナーが用意され、ダイナミックなオフボールムーブからの3ポイントシュートを武器にしていたハリスは、かつてレブロン・ジェームズよりも高確率でドライブを決めていく選手だった。そのプレースタイルは、スーパースターからのパスをコーナーで待つだけの今のハリスからは想像もつかない。究極のチームオフェンスは一つの武器を多彩に変えてしまうものだが、究極の個人技はチームメートのプレーを殺してしまう。

ネッツの公式Twitterから、いつの間にか『WeGoHard』の文字は消されていた。最も重要なチームカルチャーを手放すくらいならスーパースターなんて必要ない。マークスとアトキンソンがタッグを組んだ頃のネッツは弱いにもかかわらずドラフト指名権を根こそぎ手放しており、『史上最悪の再建期』と呼ばれた。本当ならジェイレン・ブラウンもジェイソン・テイタムもネッツが指名できるはずだった。『サラリー総額が安いこと』という唯一の武器を活用したマークスの抜け目ないトレード術で手に入れた下位指名権とラッセルくらいしか、まっとうな補強はなかった。

マークスはいつも他のチームで失格の烙印を押されたような選手を連れてきて、それをアトキンソンが彼なりの錬金術で素晴らしい選手へと変えていった。そんな選手たちは総じてゲームプランに忠実で、チームメートのために動き、ハードワークを欠かさず、ベンチから大声を張り上げた。そんな素晴らしい選手たちよりスーパースターを選んだマークスの判断は大間違いだった。もうスーパースターなんて要らない。

ドリアン・フィニー・スミス、キャメロン・ジョンソン、そしてミカル・ブリッジス。大量のドラフト指名権とともにネッツが手に入れたのは、いかにも『WeGoHard』な選手たちだ。なんと素晴らしいトレードだろう。これは負け惜しみでも何でもない。彼らはコートの上で一切妥協することなく、常に全力を出し続け、ベンチに下がってもチームを盛り上げてくれるに違いない。ネッツは再びリーグで最高のケミストリーを誇るチームとなる機会を得た。

『スーパースター』という甘い響きに誘われて、この3年半のネッツは道を誤り、全てを失った。それでもこうして良い方向に、そして急激に舵を切ることができたのだから、あとは迷うことなく前進するだろう。願わくばもう一手、アトキンソンをヘッドコーチに戻してほしい。アトキンソン・ネッツファンの心の叫びでした。