田中大貴

文・写真=鈴木栄一

フリオ・ラマス「後半はすべてが変わりました」

11月30日、男子日本代表はワールドカップアジア予選Window5の初戦となるカタール戦に85-47と快勝した。ただ、試合全体を通して主導権を握っていたわけではなく、前半は第1クォーターこそニック・ファジーカスの活躍でスタートダッシュに成功したが、その後はカタールのゾーンディフェンスに手を焼いて失速。第2クォーターではわずか11得点に終わると、さらに先発ポイントガードの富樫勇樹がシュートの着地で相手の足を上に乗ってしまう形で負傷してしまっての途中退場。31-32とスコアでは互角だったが、嫌な雰囲気のままで前半を終えた。

しかし、第3クォーターになるとフリオ・ラマスヘッドコーチが「前半と後半は全く別だった」と試合後の会見、第一声で言ったように状況は一変する。「後半、カタールがバテてくる傾向があるのはスカウティングで分かっていたので、自分たちの流れが来る。後半は自分もアグレッシブに行こうと思っていた」と比江島慎が振り返ったが、プレーの強度が落ちなかった日本はこのクォーターで30-8と圧倒すると、第4クォーターも追撃の手を緩めずに突き放す盤石の試合運びだった。

後半はわずか15失点。この堅守が日本に勝利をもたらした。「前半のディフェンスは普通に良かったが、後半はすべてが変わりました。ディフェンスはとても素晴らしくアグレッシブに行けました」と語ったラマスは、チーム全体が良かったと強調した上で馬場雄大、張本天傑、竹内譲次を称えた。「雄大、天傑はディナイ、プレスをしっかりやってくれました。譲次のヘルプディフェンス、ピック&ロールへのディフェンスは素晴らしいです。第3クォーターはみんな良かったが、特にこの3人はスペシャルでした」

田中大貴

ポイントガード起用に応えた田中「速い展開を意識」

忘れてはならないのは田中大貴の攻守に渡るオールラウンダーとしての見事な働きぶり。富樫、篠山竜青と司令塔2人体制の中で、富樫が負傷したことにより後半にポイントガードを務めると、守備では前半に強力なアタックで日本を苦しめた相手のポイントガードを抑える。さらに、「後半、ポイントガードをやる時間帯では、セットを使う前になるべくどんどんボールを前に飛ばして、早い展開で攻撃を仕掛けられることを意識していました」と振り返ったように、自陣からパスを積極的に出すことで、馬場の豪快なダンクを筆頭としたファストブレイクを導き出していた。
ラマスは、田中のポイントガードについてはもちろん「今回の2試合で、彼にやらせることは考えていませんでした。ただ、1週間前にベンドラメ(礼生)が故障し、今日は勇樹がケガをしてしまった」と不測の事態での起用だったと言う。しかし、「大貴、マコ(比江島)は将来、ポイントガードをできる選手と考えています。練習でも大貴は時々やっています。彼の司令塔としての働きは本当に素晴らしかった」と田中の適性については自信を持っており、期待通りの働きを見せてくれたと感じている模様だった。

この試合、日本代表にとっては勝利という結果とともに、内容も実り多いものとなった。富樫の負傷の具合は3日のカザフスタン戦に向けて大きな懸念材料だが、第3クォーターで一気に突き放した場面は田中、比江島、馬場、張本、譲次と、大黒柱のファジーカスをベンチに置く布陣で作り出した。これまでにないラインナップで結果が出たことは、戦術の貴重なオプションが1つ増えたことを意味する。

このところ日本代表で活躍する機会の少なかった張本や古川孝敏が繋ぎの仕事を果たしたのも明るい材料。チームの総合力が高まっていることを示した中、次戦のカザフスタン戦も文字通り総力戦で勝利をつかみたい。