WCプレビューvol.13近畿大学附属(大阪)大森健史「ただバスケを楽しんで」

2018/12/18
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近畿大学附属

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

「強い者、頭の良い者が生き残るのではない。変化するものが生き残るのだ」という言葉がある。教育の現場である学校の部活動において、体罰やシゴキといった体育会系の悪しき習慣は過去のものになりつつあるが、近畿大学附属はその一歩も二歩も先を行っている。「バスケットボールで人間育成ができるのかどうか分かりません」と語る大森健史コーチは文武両道すら飛び越え、スポーツを教育の枠組みから取り外そうとしているようだ。開幕が迫るウインターカップについても「楽しめばいいんですよ」と、余計な力みはない。浪花節とは無縁のチームが自分たちのスタイルでどこまで行けるか。近畿大学附属の挑戦は大いに楽しみだ。

「ウチでやりたい選手に来てもらう」

──まずは先生の自己紹介からお願いいたします。

近畿大学附属高等学校で監督をしております、大森健史と申します。近畿大、近畿大の大学院を卒業して、そのあと宮崎で3年間教員をやり、2003年から本校でコーチを経て監督をしています。宮崎でもバスケットを指導していましたが、このように本格的にコーチをやるのは本校に戻ってからなので、これで16年目です。

私が教えるようになってインターハイには6回出場、ウインターカップも6回出場で、2015年のベスト8が最高成績です。バスケットをちゃんとやってチームを強くしたいと思っていた時はうまく行きませんでした。以前は強豪校と肩を並べて、うまい選手に声を掛けたりしていたんですが、自分たちに合っているバスケットを考えるようになって勝てるようになりました。例えば無理な練習を長時間やることはしない。上手い選手を集めるんじゃなく、ウチでやりたい選手に来てもらう。そういうことです。

──リクルートに力を入れるよりも、結果を出せるということですか?

本校は進学校ですが、スポーツクラスは学力がなくても誰でも入れる感じでした。その時も良い子ばかりで楽しかったのですが、結果が出るようになったのはスポーツクラスの選手を特別視しなくなった時からです。それで勉強に対する意欲がある子しか取らなくなりました。今はスポーツクラスがないので、勉強する意欲が高い子たちが来ています。それでバスケットの成績は上がりました。

──毎日の厳しい練習が良い選手、強いチームを作ると普通は考えます。このチームには何が起きたのでしょうか?

練習時間が短くなりました。昔は賢い選手もいたけどそうじゃない選手もいたので、基準を合わせるのが難しかったです。賢い子に合わせるとスタートの選手が付いてこれない。スタートの選手に合わせて長時間の練習になると賢い子たちが飽きてしまって集中が続かない。これは学力の問題ではなく、同じ層で絞ることができれば結果は出せるのだと思います。

今はチーム内で3年生が下級生を教えたり、できる選手ができない選手を教えています。そうなると私のやることがなくなって、外から見たら「ちゃんと練習してるの?」と思われるんですけど、練習時間を短くして、私自身はあまり指導しないと決めてやっています。選手からすればチーム内の競争が厳しいので頑張りますが、私は「この時期にできるようになればいいから待つよ」という感じです。無理にやらせることはしません。

近畿大学附属

「上手くなりたければバスケット以外も充実させなさい」

──大阪では、顧問による体罰を苦に部員が自殺する桜宮高の事件がありました。あの事件から変わったことはありますか?

昔の桜宮と近大付属は色分けがはっきりしていて、厳しいスパルタ指導が合う子は桜宮で、厳しい指導が嫌なら近大付属、でした。あの事件を機に、特に大阪の指導は変わりました。当時そうやっていた先生たちは今は昔ほど厳しい指導はしていません。大阪府の体罰に対する研修は全国でも一番進んでいると思います。

子供に合わせて指導も変わるべきです。今の子たちは、昔の感覚から言えばメンタルが優しくなりました。昔は怒鳴ったら頑張りましたが、今の子たちに怒鳴ったらヘコむだけです。「みんなでやろうよ、頑張ろうよ」と声を掛けてあげたほうが伸びます。体罰とまでは言わないまでも、暴言のようなキツいことを言えばすぐに落ち込んでしまいます。

困った時だけ助けてあげる環境が大事です。ほったらかしもダメですし、過保護すぎもダメですし。そのちょうど良いところで接することが大事だと思います。

──近大付属からプロになった選手はいますか?

北村豪希がいますが、ウチに入って来る選手はプロになるほど能力が高くないんです。大学までは続けますが、それより上のカテゴリーでやっていける選手はいませんでした。今、専修大にいる西野曜はプロになれるかもしれませんけど、私はあまりプロは勧めていないんです。大学もスポーツ推薦では行かないほうがいいから勉強しろ、と言っています。人生はバスケットだけじゃないので、プロという一つの道だけでバスケットにぶら下がるのはあまり勧められません。

もちろん、バスケットをやっている以上は勝ちたいですが、必要以上にやるものではないです。時間を区切って、バスケットをやる時はバスケットに、それ以外の時はそれ以外のことに集中する。逆に言えば、バスケットの時間より他のことをやっている時間のほうが長いので、そちらを充実させれば自然とバスケットも充実します。バスケットで一生食っていけるわけではないし、高校生はいろんな可能性を秘めているので、バスケットに可能性があるとしても他の部分でも充実した生活を送るべきです。バスケットだけ真剣で他の部分は適当にやっているのでは、真剣にやっているつもりでも適当になってきます。上手くなりたければバスケット以外も充実させなさい、という指導方針です。

ウチには何カ月も留学に行く生徒がいます。もしかするとウインターカップ期間中に留学でメンバーを外れる子もいるかもしれない。でも、本人が決めたならそれで良いんです。

──高校生と日々接して指導する中で、人間育成の面白さや醍醐味を感じますか?

バスケットボールで人間育成ができるのかどうか分かりません。バスケットで子供たちの成長を、というのは求めすぎだと思います。私はただバスケットを楽しんでほしいんです。バスケットで友達ができる、自分に足りないところが分かる、誰かと共有してやれるようになる……これは教室ではなかなかできない部分ですが、それは子供たちが勝手に成長しているだけです。バスケットを通じて人間育成、みたいな話に仕立てるのは好きではありません。大学で活躍できない選手、大学自体を辞めてしまう選手、プロになれなかった選手もいますから。

選手が挨拶ができるようになったとしても、それはバスケット部で指導されたからじゃありません。本人がそれが大切だと気付いたからできるようになるんです。ただ、バスケットをやることで、その気付きがたくさんあることは良いことです。

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「何年か後にはお酒を飲んでの肴にしかならない」

──どの監督にも、それぞれ「全国大会で優勝したい」とか「プロ選手を育てたい」などの目標があると思うんですが、大森先生が目標とするところは何ですか?

このスタイルで勝つことです。それなりの選手を連れて来るには金銭面を含め学校の協力が必要で、そういうシステムがある学校は強いです。コーチの力量はその次だと私は思っています。ウチではパスでディフェンスの的を絞らせず、出ている5人が共有するバスケをしています。誰か一人がエースなのではなく、みんなで同じバスケを作り上げていきます。

ディフェンスの意識も高いです。ウチはディフェンスのチームで、「防御は最大の攻撃」という考え方でオールコートでのディフェンスもします。あとは全員に役割を持たせています。ベンチで座っているだけの選手がいないように、どこかで出してあげたいと思っています。

──ウインターカップで「こういう形で勝ちたい」というものはありますか?

楽しめばいいんですよ(笑)。選手たちはベスト4を目指すと言っていますけど、どうせ何年か後にはお酒を飲んでの肴にしかならないので(笑)。

──大阪はバスケどころのはずですが、ここ数年は全国大会の上位になかなか食い込めません。このことは気になりませんか?

気にならないです。ウチはあまり勝ちにこだわりがないと公言しちゃっているのし、勝っても「また勝っちゃった」みたいな感じですから(笑)。大阪が勝てない理由は簡単で、中学生の良い選手が京都の洛南や東山、滋賀の光泉に行くからです。ほぼ大阪の生徒みたいなチームもいくつかあります。全国で優勝したければ洛南に行くような選手を勧誘できればと思いますが、それは無理だし、ウチも他府県に行くことを止めようとはしません。来た選手が頑張ってくれればいいんです。

──意識の高い子供たちを集めて自主性に任せる。選手にはその理解力と行動力がありますか?

思考力と計画性を持った子は自己犠牲ができます。目先の利益を考えずに次のことをしっかり考えられるから強いです。自主性もありますし、チームで話し合っていろいろ決めています。いずれにしても私から押し付けることはしません。

──選手の自主性に任せることで苦労するようなことは?

選手に任せると問題を起こすのでは、ということですか? 私は生徒たちに「連帯責任は取らないよ。君らが何かしても自己責任で解決してね」と言っています。

──ウインターカップでは近大付属のどんなところを見せたいですか?

ウチは歯を食いしばってガーッと泣いて、という昔の浪花節みたいなものはありません(笑)。コート、ベンチ、応援が一体となってチームとして戦っている姿を見ていただきたいです。

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