ビクター・ウェンバニャマ

プレーオフに行けるか行けないかのシーズンを続けるよりは……

どのチームも消化試合数が40を超え、レギュラーシーズンの折り返し地点に差し掛かろうとしている。各チームがそれぞれ事情を抱え、成績が良かったり悪かったりする中で、今シーズンの目標に突き進むのか、あるいはドロップアウトするのか、2月9日のトレードデッドラインには明暗が分かれることになる。

ドラフト上位指名権を得るために故意に負ける『タンキング』は、試合の魅力を損なってリーグの価値を貶める。しかし、再建チームが手っ取り早くチームを強化するのに有用で手段であるのは間違いない。さらに今年のドラフトはビクター・ウェンバニャマがいる『当たり年』で、ロッタリーに回る意味が例年よりも見いだしやすい。

10勝のロケッツ、11勝のホーネッツ、12勝のピストンズ、13勝のスパーズは、もはや今シーズンのプレーオフに進出するつもりはない。コートに立つ選手たちは自分たちのプライドと生活のために必死になって勝ちに行くだろうが、フロントが見据えるのは数年先のビジョンであり、プレーオフに行けるか行けないかのシーズンを何年も続けるのであれば、今シーズンに『戦略的撤退』を選ぶだろう。

16勝のマジックは東の13位。もう何年も下位が続き、若いタレントが本格化して面白いチームになっているが、『下から5番目』という今の順位のままシーズンを終えればロッタリ―で1位指名権を得る確率は10.5%。28位から30位のチームでも14%だから、個人の成長に重きを置いてこの順位に留まることに魅力はあるはずだ。

サンダーは18勝。ケビン・デュラントやラッセル・ウェストブルックを擁した時代から、クリス・ポールに導かれてプレーオフに進出した『バブル』のシーズンまで、小さなフランチャイズのチームではあるが上位を狙う気概を持っており、タンクは肌に合わないはず。若く才能ある選手は多いが、それでも先日ヒートにフリースロー40本を与えて敗れたように『勝ち方』をまだ知らない。勝ちに行きたい気分はあっても、それは抱えすぎてプレータイムを与えられない若手や、持て余している指名権を手放して即戦力を招き入れた『勝負の時』になった時の話で、今シーズン後半戦ではないだろう。

ジャズも岐路に立っているが、今シーズン序盤の躍進が想定外の出来事で、ドノバン・ミッチェルとルディ・ゴベアが退団した時点でチーム再建の流れからは引き返せない。ジョーダン・クラークソンが契約延長に応じないのであれば、この数週間のうちにトレードが決まり、それがあらためて再建の号令になる。

ウィザーズも難しい選択に迫られている。ブラッドリー・ビールとクリスタプス・ポルジンギスのデュオが揃って良好なコンディションを保てばプレーオフには進めるだろうが、そこが限界のようにも見える。タンク文化のないチームではあるが、今シーズンをあきらめるのであればカイル・クーズマはまさに今が売り時で、その誘惑に抗えるだろうか。

ウィザーズとともに18勝のラプターズも思案のしどころ。今のチームで勝てないのは明白だが、タンクという選択は2018-19シーズンの優勝メンバーであるフレッド・バンブリートに別れを告げるのとほぼ同意だ。マサイ・ウジリ球団社長は、いざとなれば非情な決断も下せる人物。プレーイン・トーナメントが創設された時には「それを目指すメリットがチームにない」とコメントしているが、今のラプターズはまさにその状況にある。

ブルズは19勝でプレーオフ進出がまだ現実的に目指せる位置にいる。試合数を重ねてもなかなか個々の戦力がチームとして噛み合わないが、ブルズの1巡目指名権は4位までに入らなければ他のチームに譲渡されるため、わざと負ける意味はない。2月9日のトレードデッドラインに向けた動きは、あくまで現在のチームの補強であり、再建ではない。レイカーズとティンバーウルブズも同様で、タンクにメリットはない。

難しいのはホークスだ。今のチームには限界が見え、方針転換のボタンに手を掛けている。デジョンテ・マレーを獲得するためにこの先数年の1巡目指名権を手放したこともあり、この時期を逃せばドラフトで即戦力を迎え入れるチャンスはしばらくやって来ない。とは言えデジョンテ・マレーを獲得し、トレイ・ヤングと組ませた1年目をあきらめるのは相当な勇気が必要になる。ちょうどここから先は同じような成績の中堅チームとの対戦が続く。ここで結果を出せないようだと、手を掛けたボタンをいよいよ押すことになりそうだ。

いずれにしても、ウェンバニャマという『宝石』を手に入れるのは、ここで名前の挙がったチームのどこかだ。ロッタリーの抽選確率をフラットにする変更が2019年に行われ、タンクを積極的にやる意味は薄れたが、どうせ下位に沈むなら少しでも『宝石』を引き当てる確率を上げたい意図は働くはずだ。『今勝ちに行く』か『将来の勝ちを目指す』か──。求めるのは同じ勝利でも、そのアプローチはこれから大きく分かれることになる。