「感情を出しつつ頭はスマートにプレーすることを意識しました」
12月11日に行われた大学バスケのインカレ男子決勝は、東海大が白鷗大に54-51で勝利を収め、昨年の決勝で敗れたリベンジを果たして2年ぶり7度目の日本一に輝いた。今年の東海大は1年時から活躍していた大倉颯太、佐土原遼、八村阿蓮が卒業し、さらに河村勇輝もプロ転向によりチームを離れたことで、昨年から中心選手が一気に4名も抜けてしまった。昨年まで試合に大きく絡んでいなかった選手たちのステップアップを抜きに優勝は不可能だった中、大きなインパクトを与えたのが司令塔を務める3年の黒川虎徹だった。
東海大諏訪高時代の黒川は、高校バスケ界屈指の司令塔として活躍をしていた。だが、東海大に入学後は昨年まで同級生の河村を筆頭とした激しいポジション争いを勝ち抜くことができなかった。故障もあって過去2年間のインカレに絡むことはなかったが、今年は思い切りの良いアタックから精度の高いミドルシュートや的確なパスに加えて、激しいプレッシャーをかける守備と素晴らしい活躍を見せた。
準々決勝では13得点5アシスト4リバウンド、準決勝では8得点9アシスト4リバウンド2スティール、決勝でも5得点3リバウンド3アシストを記録し、アシスト王を受賞している。ベンチスタートだったが、接戦で迎えた終盤でもコートに立ち続けていたことが、中心選手として信頼を得ている何よりの証拠だった。
ロースコアの壮絶な我慢比べとなった決勝について黒川は「自分たちはディフェンスチームであることを40分間崩さずにできたのが勝てた要因だったと思います」と振り返る。そして、堅実なゲームメークが光った自身のプレーについてこう語った。
「(第4クォーター途中に)逆転されたときは得点を取らないといけないと思いました。ただ、最終的に自分たちが逆転した後はオフェンスにフォーカスするのではなく、自分たちがディフェンスのチームであることをどれだけ周りに伝えられるかということと、感情を出しつつ頭はスマートにプレーすることを意識しました」
冒頭で触れた河村のプロ転向もあり、今シーズンの黒川は3年となって初めてローテーション入りを果たしたが、インカレの前までは本来の力を発揮できずに苦しんでいた。それが最後の大舞台でこれまでの鬱憤を晴らすかのように活躍できた理由はメンタルの変化が大きかったと明かす。「秋の関東大学リーグ戦までは自分に自信がないというか、迷いながらプレーしていましたが、インカレでは4年を男にする気持ちでプレーしました。そして、0点でも0アシストでもチームが勝てばといいとマインドチェンジをして吹っ切れた部分が良いプレーに繋がったと思います」
自分の数字を全く意識しなかったことが結果として、アシスト王を受賞する大活躍へと導いた。「スタッツを意識するとポイントガードとしてのエゴが出てしまう。コートの中の監督はポイントガードだと思うので、何よりもチームをコントロールすることを意識しました。そしてチームのためにありたい、0点でも0アシストでもいいと思えたからこそ結果に繋がっていると思います」
苦しい2年間を乗り越えられた理由「陸さんの下でプレーできているのが大きいです」
3年目の大きな飛躍となった今シーズンだが、逆に言えばこれまでの2年間は出番に恵まれない苦しい時期が続き、「一昨年と昨年は本当に悔しい思いをして心が折れそうな時もありました」と明かす。
だが、そこで踏ん張り、ワークアウトなどやるべき事を腐らずに続けてきたことがインカレでの大活躍の土台となった。そして腐らずにいられたのは何よりも陸川章ヘッドコーチの存在が大きかった。
「陸さんの下でプレーできているのが大きいです。陸さんはずっと一人ひとりに声をかけてくれます。シーズン最初の頃、自分がちょっと逃げたプレーをした時に『ビビらずに行け』と言われ、そこからシーズンを通してコンタクトを避けずにプレーできたと思います。このインカレで4年生と陸さんをチャンピオンにさせてあげたいという気持ちを持っていたからこそ、自分は折れずにやれたと思います」
また、Bリーグ、そして日本代表として活躍中の河村の存在は自分にさらなるモチベーションを与えてくれたと語る。「入学して一緒になった時から絶対に負けたくないと思っていました。昨年のインカレは優勝できずに終わり、その後で勇輝が退部となった時からずっと自分がチームを勝たせないといけないと思いました。勇輝が代表やBリーグで活躍しているのはすごいです。その中で悔しさという部分も自分の中にありますが、彼の活躍に良い刺激をもらってやれています」
3年目にして遂にチームに貢献できたことを黒川は「やっとスタートラインに立てました」と考える。「自分には足りないものが多いです。ディフェンスだったり、シュートセレクションだったり、ポイントガードとしてのIQの高さだったりそういう部分ではまだまだだと思っています」
黒川にとって来年は大学最後のシーズンとなる。「人間的にも一回りも二回りも成長させてもらっていますが、まだまだ足りない部分も多いです。だからこそ陸さんの下でしっかり学びたいと思います」。このように心から信頼を寄せる指揮官の下で、黒川がさらなるステップアップを果たすことは東海大のインカレ連覇には欠かせない。