新アリーナ計画を発表したアルバルク東京、林邦彦社長が考える将来像(後編)「東京のマディソン・スクエア・ガーデンに」

新アリーナ計画を発表したアルバルク東京、林邦彦社長が考える将来像(後編)「東京のマディソン・スクエア・ガーデンに」

2022/11/18 19:00
林邦彦

アルバルク東京(以下、A東京)は今シーズンから改修を終えた代々木体育館に戻って来た。とはいえ、Bリーグ初年度に使っていた代々木第二体育館ではなく、代々木第一体育館が新たなホームアリーナとなる。そして2025年秋にはお台場エリアの青海に新アリーナを建設する『TOKYO A-ARENA PROJECT』を発表し、新B1を見据えてリーグを引っ張る存在となりそうだ。それでも商社マンのバックグラウンドを持つ林邦彦社長は、ただ要件を満たすだけでなく、グローバルを見据えてA東京の、そして新アリーナの将来像を描いている。

「最初のベンチマークは沖縄アリーナです」

──先日、『TOKYO A-ARENA PROJECT』が発表されました。トヨタ自動車とトヨタ不動産、アルバルク東京による一大プロジェクトで、2025年完成予定です。単なるバスケの試合会場ではない先進性、規模の大きさを感じさせました。A東京は新アリーナの運営会社を担いますが、林社長が考える新アリーナの理想像はどんなものですか?

ニューヨークに旅行する人の中で、スポーツにそんなに興味がなくてもマディソン・スクエア・ガーデンやヤンキー・スタジアムに行きたいと思う人はたくさんいます。私も出張でニューヨークに行った時にはマディソン・スクエア・ガーデンに実際行きました。試合があればベストですけど、なくても訪れたいと思わせる施設です。私が勝手に思い描いているのは、東京でそういった存在となることです。

これは国内旅行の人はもちろん、海外からのインバウンドのお客様が日本に来た時にも「TOKYO A-ARENA(仮)に行ってみたい」と思えるような場所にしたいです。そのためには建物だけでなく、中のコンテンツも大事ですし、周辺を含めた街ぐるみで活気がなければいけません。アリーナを中心に街が活性化して、後になって「アリーナが建ってから5年経ったけど、街は大きく変わったよね」というような評価をされたいです。

東京にはたくさんのエンタテインメントがあり、どうしてもプロ野球やJリーグ、コンサートなど他のエンタメとの競争に見られがちですが、少子高齢化が進む中でお客様を取り合う構造では消耗戦になり、発展は望めないと思っています。東京に住んでいるといろいろなことが1年を通じて近場で楽しめる、スポーツで豊かな生活へ貢献できる循環構造を作り出していきたいです。

──プロバスケチームとして上手くやるだけではなく、東京の新しいランドマークとして成り立たせることも大事なわけですね。

そうですね。我々はバスケットボールの試合の興行主ではありますが、アリーナの運営会社にもなります。沖縄アリーナがオープンして、バスケファンはもう当然のようにあの会場の映像を見ていますし、実際に現地まで足を運んだ人も多いと思います。現場で見ると価値観が変わりますよね。沖縄アリーナの素晴らしい雰囲気の中でレベルの高い試合が行われるのは、日本のバスケ界にとってエポックメイキングな出来事だと思いました。我々にとって最初のベンチマークは沖縄アリーナです。行く末はA-ARENA(仮)を、国内からも海外からも「あれを目指そう」と言われるような存在にしたいです。

「打ち出の小槌みたいにお金が出てくることはない」

──大きなプロジェクトが走り始めましたが、世間からは「世界的企業のトヨタがやるんだから、何をするにしても楽勝だろう」と見られがちだと思います。でも実際は大きな責任が伴い、結果も求められますよね。

トヨタ自動車には負けることを嫌う人が多いです。何をやるにしても勝たなきゃいけない、その勝ち方にも品格を持って、というところがあると思います。その一方で「こうしなきゃダメ」とか「こうあるべき」とか「この指示通りにやりなさい」と無理強いをされたことは、私が社長になってからの6年間で一度もありません。

トヨタ自動車は創業の頃からスポーツとともに歩んできて、スポーツの力を借りて会社を大きくしてきた。その意思が社員の一人ひとりに植え付けられています。だからトヨタ自動車の運動部もそうですし、そこから派生した我々アルバルク東京や名古屋グランパスに対しても、社員の皆さんも温かく応援してくれます。

企業風土、企業文化として決して「無駄遣いをしない」運営をしています。電気はこまめに消す、コピーは無闇に取らないし、お客様にプレゼンテーションするもの以外は白黒でいいだろうとか。そういう合理性を持って生産して利益を出している会社です。何かあったら無条件にお金を出してくれるイメージがあるかもしれませんが、それは全くありません。

スポーツの運営についても、打ち出の小槌みたいにお金が出てくることはないです。我々のやりたいことに対しての投資とリターンを事業計画を含めて話し合います。今回のアリーナにしても、こういった試合の見せ方をしたい、グローバルに繋げていきたい、だからこういったアリーナが必要で、それに対する投資はこれぐらい、という話し合いを繰り返して発表へと漕ぎ着けました。トヨタ自動車、トヨタ不動産、アルバルク東京が一緒に形にした象徴として、3社のトップが発表会見に出ています。

──トヨタ自動車の豊田章男社長はモータースポーツ好きで知られていますが、バスケも応援してくれるそうですね。新アリーナの会見に出られた早川茂副会長はそれ以上だと聞きます。

早川副会長には相当な頻度で会場に足を運んでいただいています。もともとトヨタ自動車のバスケットボール部の顧問をやっておられた方なので、バスケットボールに対する造形も深くて、他のクラブの選手については私よりずっと詳しい、相当なバスケットボール通です(笑)。こういった方たちがトヨタ自動車のトップの中で話をしてくださるので、アリーナの件も豊田社長にもしっかり進捗が伝わり、私も何度も直接プロジェクトの説明をさせていただいていますが、本当に肝入りのプロジェクトとなっています。

林邦彦

「ベンチマークが海外なのに活動が日本に収まるのはアンバランス」

──新アリーナは3年後の秋に開業予定です。A東京のその先、5年後や10年後の理想像はどんなものですか?

5年後だと将来構想が始まって2年目で、それだけの要件を満たしたクラブが今のBリーグ以上のクオリティをしっかり提供していなければいけません。その中でもA東京はしっかりした立ち位置にいたいです。10年後はまだちょっと想像ができませんね。まだBリーグができて7年目で、ここまでの急激な成長からすると、やっぱりNBAに続く2番目のリーグを見据えて仕上げに入っている時期になっていればいいですね。NBAのロスターに入れなかった時に、Gリーグに行くのではなくBリーグに来て、Bリーグで活躍が認められるとNBAにコールアップされるような。興行レベルと競技レベルが連鎖して上がっていけば、日本代表の世界ランキングも当然上がっていくはずです。その日本代表にはA東京の現役プレーヤーはもちろん、A東京にかつて在籍した選手も多く入っている。そういった選手を常に輩出できるチームになっていたいです。

あとはグローバルがキーワードになります。JリーグもBリーグも地域をすごく強調してやっていますが、これを広げていくべきだと思います。バスケットボールがグローバルな競技であるにもかかわらず、一つの地域に留まり続けるのはもったいない。我々からすると、日本だけじゃない場所でクラブとして活動できたり、日本に来る外国人の方をファンにするような活動ができるクラブになっていきたいです。

──アジアも各国でバスケ人気が高いですから、アジアに打って出るのも良いですね。

アジアは無視できない市場です。人口もそうですし、GDPも上がってくるので、そこはちゃんと見据えながらクラブの認知を高めていきたいです。サッカーのACLも10年前だと価値が低かったですが、今はすごく上がってきています。Jリーグだと鹿島アントラーズがFIFAクラブワールドカップに出たのをきっかけに、その時に活躍した柴崎岳選手がスペインに移籍しました。バスケットボールの場合はトレードマネーの制度がないので10年後もちょっと分かりませんが、広い視野でビジネスをしてクラブの価値を上げていきたい。そこは10年後には広げていきたいですね。

──これはバスケ出身の社長にはあまりない発想というか、商社っぽいですね(笑)。

そうかもしれません。マーケットを批判するわけではないですが、日本は少子化でマーケットが縮小していきますが、ITが広がる中で世界は小さくなってきます。今はコロナで海外との往来が減りましたが、また海外との交流が復活することは確実ですし、世界を見ながらビジネスをしていかなければマーケットが広がっていきません。もっと言えば、ベンチマークが海外なのに活動が日本に収まるのは、私からするとアンバランスだと思います。

──新アリーナ計画をはじめ、A東京はBリーグをリードする立場にありますね。

誤解を恐れずに言うと、A東京のアリーナに来る方がA東京ファンにならなくても、試合を見てドキドキして「面白かった」と満足して帰ってもらうことが大事と私は思っています。次にA東京の試合がいつあるかを調べてまた来てきただくのがベストですけど、バスケットボールが好きになって他のチームの試合でも見に行ってもらえればいい。東京に遊びに来た時にA東京の試合を見たのをきっかけに、地元チームのファンになるのも歓迎です。まずは試合を見ていただくことが一番大事で、我々が良い試合を続けていれば、いずれバスケットボールを好きになったきっかけであるA東京を応援してくれるようになるでしょう。そのためにも良いチームを作り、アリーナで非日常を演出できるように努めていきます。

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