キングス

文=神高尚 写真=Getty Images

個性を有効利用するチームオフェンスを展開

開幕して半月、ここまで予想外の好成績を挙げているのがサクラメント・キングスです。目立った補強がなく、プレシーズンの内容も悪く、下位に沈むと予想されていたのですが、シーズンになると見違えるようなチームになり、10月を5勝3敗と勝ち越して終えました。

好成績の要因は昨シーズンにリーグ最下位だった得点が、平均98.8点からリーグ7位の平均116.5点まで改善したこと。フィールドゴール成功率50%、3ポイントシュート成功率40%と高いシュート成功率がキーポイントになっています。

得点の中心にいるのは3年目のバディ・ヒールド。ここまでチーム最多の14.1本のシュートアテンプトで18.9点を稼いでいます。高いシュート能力が持ち味で3ポイントシュート成功率44.7%を誇るヒールドは、パスを待つタイプのシューターではなく、オフボールでコートを走り回ってディフェンスを引き離し、動きながらでも決める高いシュート能力があります。ディフェンスからすると動き回るヒールドを止めるためには、チーム全体でヒールドが走り込むスペースを警戒する必要があります。

しかし、ヒールドは昨シーズンも3ポイントシュート成功率43.1%でチーム最多得点を記録しており、今シーズンになって才能が開花したわけではありません。チームとしてより有効にヒールドが機能するようになった理由は、もう1人タイプの違うシューターの加入にあります。

ティンバーウルブズから加入したネマニャ・ビエリツァはここまで3ポイントシュート成功率54.5%ですが、ヒールドのように動き回るのではなく、パスを待つタイプのシューターです。パワーフォワードのポジションで起用されながら、アウトサイドで待つビエリッツァはシュート成功率が高いため、ディフェンスの注意を引きつけてくれます。ミスが少なく的確なパスもできるため、パスの中継役として動き回るヒールドへのアシスト役にもなります。

動かないビエリッツァへのマークを強めるとヒールドにシュートを打つスペースを与えてしまい、チームで対応する必要のあるヒールドを警戒するとビエリッツァが空いてしまう。タイプの違う2人のシューターの存在が相乗効果を生み出し、チームオフェンスを機能させているのです。

高確率の2人が少しでもフリーになるとパスを供給していくのが2年目のディアロン・フォックスです。スピードが武器のポイントガードで、自ら切り崩すプレーが中心でしたが、ヒールドとビエリツァのシュート確率があまりにも高いために、2人を的確に見つけるスタイルに変化。一瞬のフリーを見逃さずタイミング良くパスを回し、6.9アシストを記録する良いパサーになってきました。

さらにはコートを広げてくれる2人のシューターにディフェンスが警戒を強めると、フォックス自慢のスピードの出番となります。ドライブで切り裂きインサイドに侵入し、昨シーズン5.4点だったペイント内の得点が9.3点まで増えています。

フォックスと同様に4年目センターのウィリー・コーリー・スタインはペイント内の得点を8.9点から14.3点まで伸ばし、フィニッシャーとしての役割を果たしています。シュートそのものはあまり上手くないものの、しっかりとゴール下まで詰めるプレーが増えたのは、周囲との連動性が高まったことでフリーになる機会が増えたことが大きく、高確率で決めるシューターとインサイドのフィニッシャー、その両者を操るフォックスという相乗効果が発揮されているのがキングス好調の理由です。

昨シーズンはザック・ランドルフのポストプレーや、ボグダン・ボグダノビッチの突破が中心だったキングスは、ヒールドとビエリッツァのシューターへのテンポの良いパスオフェンスを中心に、広がったインサイドをフォックスとコーリーステインが有効利用するチームオフェンスを展開しています。パスで崩しながら、時にフォックスとヒールドがドライブで突破する変化も混ぜるので、対策が練られていないシーズン序盤ということもあって相手チームのディフェンスを悩ませています。

不安なのはリードを奪う展開のほとんどが、この4人が絡んだものであること。ベンチメンバーが増えるほどに機能しなくなっていきます。ドラフト2位のマービン・バグリーは高いシュート成功率とリバウンドで個人スタッツでは貢献していますが、チームとしてはバグリーがコートにいる時間の得失点差は大きくマイナスになっており、同じポジションながらタイプが全く違うビエリッツァと交代しただけで、チームバランスが大きく変化してしまいます。ケガで離脱中のボグダノビッチが戻ってきても、同じようにバランスが崩れる不安があります。

キングスにとって今シーズン最も大切なのは若手たちが経験を積んで成長すること。成長のためにそれぞれのプレータイムを確保する必要もありながら、突如としてオフェンスが噛み合ってきた今の良い流れも崩したくない。ヘッドコーチのデイビッド・イエーガーは予想外の悩みを抱えているかもしれません。