辻直人

広島ドラゴンフライズはB1昇格1年目の2020-21シーズンに挙げた9勝から、昨シーズンは29勝と成績を大きく向上させた。それでも上位の壁は高く、チャンピオンシップ出場を果たすことはできなかった。チームのエースシューターである辻直人は昨オフ、9年間に渡って在籍した川崎ブレイブサンダースを離れて広島に加入。この1年間を通して学んだことをどう生かし、チーム初のチャンピオンシップ出場、そして頂点に向けて広島を導いていきたいか、思いを聞いた。

「昨シーズンは僕のバスケットボール人生の中で感じなかったことを感じられた」

――辻選手にとって初の移籍となった広島での1シーズン目は、どんなシーズンとなりましたか。

本当にいろいろなことを学べたシーズンで、そのおかげで自分の足りないところにあらためて気づかされました。年齢を重ねてきて自分から意見を言ったり、チームを引っ張っていかないといけないですが、若い選手も多いので伸び伸びとプレーさせたい思いもあってあまり自分の考えを言わないでいました。ただ、そうではなく自分の考えをしっかり主張すべきだったと思いました。これまで在籍していた川崎だとニック(ファージカス)や篠山(竜青)さんが、チームを引っ張ってくれていて、僕は何かあったら言うくらいでした。そこが自分の未熟さだったり、今までは甘えていた部分だったと感じました。

僕は勝ちたいですし、結果を出したい。個人が伸び伸びとプレーするのはもちろん大事なことですが、チームが勝つためにもっといろいろなことを伝えていく。もちろん僕自身、すべてを知っているわけではなく、ベテランの朝山(正悟)さんや若い選手から学ぶことはあります。そういうところのコミュニケーションをもっと取っていけたらと思います。

──今シーズンはキャプテンに就任することを踏まえ、あらためてリーダーとしての振る舞いについての考えを教えてください。

何かあった時に言うだけではなくて、日頃から自分が思ったことや気づいたことを、厳しいことでもチームの為になるなら言わないといけない。今までやったことがないのでストレスを感じるかもしれないですが、それは自分にとって良い刺激となる。そういった発言をすることで僕自身、当然ですが練習では一切手を抜けない、試合で腑抜けたプレーはできない。自分自身をさらに引き締める意味でもすごく良いことだと思います。また、リーダーといっても言葉で引っ張る、背中で見せていくなどいろいろなタイプがいますが、そういう枠に囚われずに自分らしいキャプテン像を作っていきたいです。

――辻選手は、これまでのキャリアにおいてほぼ毎シーズンのようにポストシーズンを戦ってきました。それが昨シーズンはチャンピオンシップに進めませんでした。

レギュラーシーズン残り10試合くらいで、自力でのチャンピオンシップ出場は無理かなと分かった時、正直なところメンタル的にちょっと厳しいところはありました。でも当たり前のことですが、試合を見に来てくださるファンの皆さんはいっぱいいて、その方たちのためにも試合に勝つことを考えてプレーしていました。それと同時に次のシーズンに向けて自分のシュートフォームとかにもフォーカスしていました。

──これまでにない経験をした広島1年目の昨シーズンは、あらためて総括するとどんなシーズンでしたか。

いろいろな意味で忘れることはないシーズンになったと思います。チャンピオンシップに出場できなくなってからの消化試合、これまでにない連敗も経験しました。そこで打開策がなくて、自分も含めて立て直すことができなかった経験を今シーズンに生かしたいです。チームが大きく崩れないように誰かに任せるのではなく、普段から率先して発言しチームをまとめていきたい。昨シーズンは僕のバスケットボール人生の中で今まで感じなかったことを感じられたシーズンだったと思います。

辻直人

「昨シーズンと比べてチーム内の競争の激しさは全然違っています」

──昨シーズンの個人のパフォーマンスは、どのような自己評価ですか。具体的に目標とする数字があったら教えてください。

広島に入る前に思い描いていたようなスタッツではなかったです。その前年(2020-21シーズン)の川崎時代とあまり変わらない結果だったので、それだと移籍した意味がないというか、移籍を決意した時の自分の想像とはかけ離れてしまいました。今シーズンは自分の軸をブラさずにやり続けることができれば、自然と数字にも現れてくるのかなと思います。Bリーグ2年目(平均12.8得点)くらいの平均得点は取りたいですし、3ポイントシュートの成功率も再び40%に乗せたい。そこは具体的な目標として考えています。

――今シーズンの広島は、日本人の主力選手が揃って残留しました。それによるチームの成熟や変化を感じる部分はありますか。

僕を含めてですが、昨シーズンはチーム1年目の選手が多くて、それが2年目になって雰囲気も変わってきています。昨シーズンと比べてチーム内の競争の激しさは全然違っています。一人ひとりに自覚や責任がより出てきたと思います。

──外国籍、帰化枠は大きくメンバーが変わり、昨シーズンのレギュラーシーズンベスト5受賞のドウェイン・エバンス選手が琉球ゴールデンキングスから加入しました。

本当にスマートな選手で、自ら得点を取るだけでなくピック&ロールからパスをさばいたり、チャンスメークもできる選手です。彼の加入で僕がアシストを生むためのアシストをしなくてもいい。そこを彼が担ってくれる場面が増えていき、僕のシュートチャンスが多くなると勝手に思っています。

──広島が昨シーズンからステップアップするには、何が鍵になると思いますか。

上手くいっていた時はチームディフェンスが機能していたので、その時間帯をいかに長く維持できるかが最も重要になると思います。チャンピオンシップに出るためには、よりハードにプレーしないといけないことは昨シーズンから在籍している選手はみんな分かっています。その点は僕も日頃から強調していきたいです。オフェンスに関しては、昨シーズンはどちらかというとインサイドゲームが多い展開でしたが、今シーズンは僕もシュートアテンプトを増やしていくなど、速い展開でシュートを決めていくことができれば良い流れになると思います。カイル(ミリングヘッドコーチ)も今シーズンは攻守に渡って速いバスケットボールにしたいと言っており、そこは「今シーズンの広島は変わった」と言われるところになると思います。

――ミリングヘッドコーチとも2年目です。そこは昨シーズンからの上積みで期待できるところですね。

カイルは自分から積極的に話しかけてきてくれて、こちらの意見をよく聞いてくれます。だから、僕たちも話しかけやすいコーチです。カイルが考えるバスケットボールをシーズン終盤になってより理解して上手く体現できるようになり、強豪と言われるチームにも勝ったことが自信になっています。今シーズンのメンバーはより機動力が上がって、彼のやりたいバスケットをやりやすくなっている。チームのベースはすでにできているので、新加入の選手たちもアジャストしやすいと思います。

辻直人

「今シーズンこそはと腹をくくっていますし、自分はこうするという軸は決めています」

――個人として、どんなプレーでチームを引っ張っていけたらとイメージしていますか。

ピック&ロールからチャンスメークをしたり、自分がシュートを打つだけでなく、アシストからシュートをどんどん決めていく。今まで磨いてきたものの集大成となるシーズンにしたいです。どちらかと言うと、昨シーズンはチャンスメークの方に偏っていたと感じています。ただ、今シーズンは速い展開でのバスケットボールを目指していく中で、パスをもらってからのシュートを打つ回数も増やしていきたいと思います。

――第2節には古巣の川崎とアウェーで対戦します。60分の2つの試合なのか、そこは特別な位置付けの試合なのか、どうでしょう。

その中間くらいです。チームとしてもまだまだ熟成されていない段階ですし、川崎戦に状態をパーフェクトに持って行こうとは全然考えていないです。かと言って『60分の2』とも考えづらくて、とどろきアリーナでプレーするのは特別なことなのですごく楽しみです。

──あらためてですが、辻選手自身は今シーズンどんなテーマで臨みますか。

実行するシーズンにしたいと思います、昨シーズンは移籍していろいろと考える中で同じことを言ったかもしれないですが、今シーズンこそはと腹をくくっていますし、自分はこうするという軸は決めています。このまま何があってもそれが揺らぐことはないです。

──広島のファンの皆さんにメッセージをお願いします。

昨シーズン移籍してきて、皆さんの暖かさをすごく身に染みて感じています。オフシーズンにテレビに出させていただいたりして、知名度が上がったところはあると思いますが、まだまだで、ドラゴンフライズの盛り上がりは伸び代しかないと思います。

昨シーズンは皆さんにも悔しい思いをさせてしまいました。まずは、チームで初めてのチャンピオンシップ出場を達成するなど、初めてのことを今シーズンはたくさん起こせるように目指していきます。そして皆さんと一緒になって広島をバスケットで盛大に盛り上げていく。広島ドラゴンフライズは今シーズンこそ熱い! というところをお見せできるように頑張ります。