原匠

厚生労働省によると、うつ病は気分障害の一つで、日本では100人に約6人がかかり、発症の正確な原因は分かっていないという。現在はトップアスリートが患うことも珍しくなく、バスケットボール界では八村塁がメンタルヘルスの問題でチームへの合流が遅れたニュースが記憶に新しい。メンタルヘルスケアの重要性は年々増しているが、当事者がその問題を自己解決できる体制が整っていないのも事実。自身も2度のうつ病を経験した原匠は、こうした状況を変えようと、今日も自転車を漕ぎ続ける。

様々なストレスが重なり、2度のうつ病を発症

──あらためて、自己紹介をお願いします。

25歳の原匠です。2度のうつ病の経験を経て、メンタルヘルスに関する普及啓発活動を行っています。活動の一環として、自転車で日本一周の旅をしながらバスケットボールを通じて地域の方々と交流を深めたり、全国各地の精神保健福祉センターや学校現場にお伺いして、講演活動を行っています。

近畿大学付属高校出身で慶應義塾大に進学しました。学生時代はずっとバスケットボール部に所属していて、高校時代はインターハイとウインターカップに出場し、国体のメンバーに選んでいただきました。大学時代はインカレでベスト16が最高成績です。

──バスケエリートと呼べるほどの人材だと思いますが、まずはどのような経緯でうつ病を発症したのでしょうか?

素晴らしいバスケットボール人生を送っていたと思います。ただ、大学3年生の時にスポーツ現場や様々な人間関係で悩みを抱えてしまい、21歳の時にうつ病を発症しました。当時は自傷行為も行っていました。発症した理由はいくつかありますが、チーム内での人間関係や家族関係の中での悩みが積み重なったときに精神的に落ち込んでしまいました。当時、1つ上のキャプテンが秋のリーグ戦の直前にチームを去ってしまい、組織としてこのままでいいのかなど、不安や悩みを抱えたのが最初のきっかけでした。また、当時は就職活動が始まりだした時期でもあり、家族関係でも悩んでいたので、それが引き金となりました。

家族関係の悩みというのは、正直、高校生のころからあり、経済的な面が大きかったです。もう少し高いレベルでやりたいという理由から、関東の大学に進学をさせていただきました。でも、関東で下宿をするという1番お金のかかる選択をしてしまったことで、就職活動に失敗できないというプレッシャーものしかかり、様々なストレスが重なりました。

原匠

「まずは自分の病気としっかり向き合おうと思いました」

──そこからうつ病を克服し、現在の活動を行うようになったきっかけは何でしょうか?

先ほど大学時代に沈んでしまった話をしましたが、社会人になってからももう一度沈んでしまった経験がありました。当時は『コロナうつ』と言われるような形で悩まれていた方も多かったと思いますが、自分もその一人だったと思います。頑張れば頑張るほど沈んでいってしまい、数カ月粘ってから会社を休職して、療養期間をいただきました。

前向きになれるようになったのは、中学生の時から同じチームでプレーしていた友人から連絡があり、その友人と自分の悩みを共有できた時間が取れたことです。当時は本当に誰とも話をしたくない状況でしたが、彼と話ができたことは前向きになる一つの大きなきっかけとなりました。その友人も社会人になってから精神的に沈んだ経験があるということを打ち明けてくれて、彼と話しているその時間が自分にとってはとても安心感を持てる時間となり、救われていくような感覚があったんです。それから、今後はどう生きていこうかなと前向きに考えられるようになりました。

今後の人生をどうすれば前向きに生きていけるかを考えたときに、まずは自分の病気としっかり向き合おうと思いました。そして、自分の中で向き合うという方法が、同じような悩みを抱えている人に対して自分の経験を話して変化のきっかけになってもらう。そう動くことが今後の長い人生で前向きに生きていける方法なのかと考え、発信活動を始めようと決断しました。

──その発信の方法はいろいろあると思いますが、自転車で日本一周を選んだのは何故でしょう?

最初は会社を辞めずにSNSで発信をしようと思いましたが、これだけ情報が溢れる時代に、さほど影響力のない自分がそこで発信を頑張っても、届けたい人のところには届かないんじゃないかと思ったんです。それだったら、そういった方が利用される精神保健福祉センターだったり、学校現場に直接足を運んだほうが伝わると考え、日本一周の旅を始めたという感じです。

──現在、一番伝えたいことは何でしょう?

僕が発信したいのは「こういう人間がいます」ということです。当時の自分の状況を振り返ってみても、支援機関や精神科に通うハードルみたいなものは間違いなくありました。その中で、当事者と話すことによって安心感を持てるという人もいます。施設の方には僕のような人間がいるということを知ってもらい、施設に通っている方が望むのであれば繋いでもらう。だからこそ、まずは僕の存在をしってもらいたいというのが一番です。

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