ルカ・パヴィチェヴィッチ

「A東京はビッグネームのチームであり、全てのシーズンで結果を残すことが重要です」

先日、今シーズン限りでのヘッドコーチ退任が発表されたアルバルク東京のルカ・パヴィチェビッチが会見を実施した。2016年に日本バスケットボール協会の技術委員会アドバイザーとして来日し、代表の暫定ヘッドコーチを務めた後、2017-18シーズンからA東京の指揮を執り、在籍5シーズンで2度のリーグ制覇を成し遂げた名将は「まず、この5年間、コーチ、そして1人の人間として素晴らしい旅を送ることができました。アルバルク東京という素晴らしいチームのヘッドコーチを務める機会を与えてもらって感謝しています。同時に日本という素晴らしい国でバスケットボールのコーチができたことは、私だけでなく家族にとっても宝物と言える思い出です」と語った。

パヴィチェヴィッチの歩みを見ると、就任1年目、2年目とリーグ連覇を達成。そして3年目の2019-20シーズンもリーグ戦開幕前にはFIBAアジアチャンピオンズカップを制覇すると、コロナ禍によりシーズン途中で打ち切りとなるが、その時点でリーグ最高勝率を残していた。しかし、過去2年間を見ると昨シーズンはチャンピオンシップ出場を逃し、今シーズンもクォーターファイナル敗退と、目標とする王座奪還には届かなかった。

とはいえ、過去2シーズンはコロナ禍の影響で何度もチーム活動の停止を余儀なくされたり、主力に故障者続出といった数多くの考慮すべき要因があった。また、パヴィチェヴィッチは2022-23シーズンまでの契約を結んでいただけに、今回の退任は大きな驚きとなった。

しかし、指揮官は「A東京はレアル・マドリード、CSKAモスクワ、ゴールデンステイト・ウォリアーズと同じくビッグネームのチームです。だからこそすべてのシーズンで高いスタンダードを維持するだけでなく、結果を残すことが重要です」と、どんな状況でも勝たなければいけないと強調する。

それ故、過去2シーズンの「結果的に不完全燃焼で、目標としていたところにたどり着くことができなかったです」と認める責任を取ることを選択したのだ。「クラブ、個人的にも異例と言える状況に陥り、いろいろと論理的な説明はできます。しかし、結果を出せなかったことへの責任を負うべきはヘッドコーチであり、残念ながら来季からこのチームを率いることはなくなりました」

ルカ・パヴィチェヴィッチ

日本のさらなる成長へ、リーグ日程、外国籍の人数についての提案

パヴィチェヴィッチはA東京に多くの栄光をもたらしたが、彼の影響はBリーグ全体に及んでいる。打倒アルバルクを果たすため、各チームはより強度の高いバスケットボールに取り組むようになった。アルバルクの存在がリーグの底上げをもたらしたことには、パヴィチェヴィッチ本人も手応えを得ている。

「最初のチャンピオンシップで優勝することでBリーグ全体のスタンダードを上げることができました。インテンシティ、アグレッシブさをアジアだけでなく、国際的な舞台でも上のレベルにまで高められたと思います」

また、濃密な5シーズンを過ごした指揮官に、思い出に残る試合を聞くと「多くの試合があります」と言う中でも、次の戦いを挙げた。「1年目のセミファイナル、三河での2つのアウェーゲームです。比江島(慎)選手と金丸(晃輔)選手に(橋本)竜馬と(桜木)JRと高いレベルの選手が揃っている相手に、2試合続けてオーバータイムで勝ったことは今でもよく覚えています。これでファイナルに進み、千葉ジェッツに勝って優勝に繋がった大事な試合でした」

最後に欧州でも選手、指導者として実績を残し、世界のスタンダードを熟知するパヴィチェヴィッチにこれまでの経験を踏まえ、Bリーグがさらに発展していくために何が必要なのか、スケジュールと外国籍の登録人数について質問すると次の意見を提示してくれた。「これは各チームのコーチ陣、GM、チームの代表の皆さんがすべて集まって協議すべきことです」という大前提の上で、まずスケジュールに関して「見直すべきだと思います。まず試合数は多いです」と語った。

「中でも週末の連戦は試合の質や選手のコンディションにダメージを与えます。激しい試合を戦った後、選手たちが翌日までに良い状態に回復するのは難しいです。特に水曜日と週末の連戦が続くと、試合のレベルが落ちてしまいます。ビジネス面のことも考えないといけないですが、バスケットボールの質と合わせてwin-winの状況を作れればいい。今は選手にとって負担が大きいと感じています」

そして外国籍に関して、オン・ザ・コートの人数は同じだとしても登録数は増やすべきと主張する。それは現状だと、外国籍に故障者が出ることで、競争力が一気に落ちるチームが少なくないからだ。

「今シーズン、私たちは平岩(玄)、吉井(裕鷹)が頑張ってくれましたが、インサイドでは日本人ビッグマンのサイズとパワーが不足しているのを外国籍で補う形となっています。今、Bリーグの外国籍はNBAやユーローリーグに近いレベルとなっている。その中で外国籍の枠が3人で1人、もしくは私たちのように2人が故障すると、ビッグマンの競争力を保つのが困難です。そして過密スケジュールによって故障者が出やすいです。また、外国籍のガードが少ないことは、代表にとって一番の強みである日本人ガードのスキルを高める機会を制限してしまうことになります」

一つの例としてパヴィチェビッチは、例えばオン・ザ・コートは2、もしくは3で、外国籍のベンチ入り登録は5人とする私見を語る。「外国籍で2人のセンター、2人のパワーフォワードがいることで試合のテンポが上がります。他に1人の外国籍ガードがいても、各チームで日本人の主力選手はプレータイムを確保できます」

「現実的に外国籍の人数を見直すことで、すべてのチームがセンターラインの層を厚くすることができます。そして、どのチームもガード選手を獲得できる状況とすれば、日本人の主力選手と合わせすべてのチームが優勝を争うことができる。そうなればリーグの質も上がり、ファンもより試合を楽しめると思います」

今後については「まずは心身ともに疲労が溜まっているので休みたいです。新たなステージは白紙です」と未定としている。ただ、「私たちの道が再び交わることを期待しています」と締めくくった。その卓越した知識とバスケットボールへの情熱、含蓄のある言葉に何度も感銘を受けてきた1人として、パヴィチェヴィッチと再会できる機会があることを強く願う。