写真=Getty Images

2014年を最後にコートに戻ることなく、正式に引退を表明

NBA屈指のピュアシューターとして知られるレイ・アレンが、現役引退を正式に表明した。ヒートでプレーした2014年を最後に契約するチームがなくなった後も、毎年のように複数のチームから関心を寄せられてきたが、結局コートに戻ることはなく、18年のキャリアに終止符を打つことになった。

優勝2回の他、NBA歴代1位の通算2973本の3ポイントシュート成功数、オールスター選出10回など、現役中に獲得したタイトルの数は枚挙にいとまがない。そんなアレンが13歳の自分に宛てた手紙が、11月1日の『Player's Tribune』に掲載された。

幼少期、空軍兵だった父親の仕事の関係で各地を転々とする生活を送ったアレンは、13歳の時にサウスカロライナ州のダルゼルに移り住んだ。すでに新学期が始まっていた時期で、思春期ということも影響したのか、アレンは周囲の環境に馴染めずにいたという。そんな時こそ、「バスケットボールコートにい続けろ。コートこそ自分の存在価値を生み出せる場所だ」と、少年時代の自分に助言を送っている。

レイ少年はジャンプシュートの才能が評価され、次第にバスケットボール選手として知られるようになっていく。だがアレンは、神様に才能を与えられたのではなく、日々のハードワークがジャンプシュートのスキルを自分に与えてくれるのだと説く。この信条は、1996年のドラフト全体5位指名を受け、NBAプレーヤーになってからも変わらなかった。

2008年にセルティックスで、2013年にはヒートで優勝に貢献したアレンは、ケビン・ガーネット、ポール・ピアース、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイドという『未来のバスケットボール殿堂入り候補』とともにプレーした経験を持つ。

手紙の中で「NBAで成功する秘訣なんてない」とレイ少年に綴ったアレンは、プレースタイルも性格も異なるガーネット、ピアース、ジェームズ、ウェイド、そして自分自身が成功を収めた共通の要因として、「退屈で古臭い習慣」と形容した日々のハードな練習を挙げた。

「彼らをチャンピオンにしたのは、誰も知ることのない『退屈で古臭い習慣』だ。彼らは皆、誰が一番早く練習場に来て、誰が一番最後に練習場を後にするかを競い合っている」

2014年を最後にコートに戻ることなく、正式に引退を表明

彼にとって、優勝による歓喜は一時的なものであり、毎日早朝に起きて練習することの次に来る喜びであり、その結果でしかないのだという。それを象徴するエピソードとして、アレンはスパーズとのファイナルを制し、ヒートで優勝を達成した翌日、2013年6月21日の朝のエピソードを明かしている。

優勝を決めた日の夜、家族や友人が自宅に集まり、盛大な祝賀会が開かれた。アルコールを口にしないアレンは、優勝した高揚感から翌朝になっても寝付けず、朝の7時になっても眠れなかったため、キッチンに下りて行き、朝食の支度を始めた。家族や友人たちはソファで熟睡している。その静寂の中、アレンは朝の7時30分に自宅を出た。向かった先は練習場ではなく歯医者だ。

治療院のスタッフは全員、NBA優勝の翌朝に歯の治療にやって来たアレンに目を丸くして驚いたというが、本人は「これが自分にとっての成功の形だ」と綴る。レイ少年に伝えたいのは、ルーティーンを重視すること。ただ、その生活ペースは時に家族に負担を強いるもので、彼自身もキャリアを通じて孤独を感じることが少なくなかったと明かしている。

「人生とは旅を続けることであって、目的地にたどりつくことを目標にすべきではない。旅こそ、自分を変えてくれるもの」と表現したアレンは、41歳になって引退を決めた今、5人の子供たちに囲まれて生活を送ることに幸せを感じている。今の彼には、「どういう選手になるべきか?」、または「再び優勝するために何をしなければいけないか?」という問いかけは重要ではない。

彼は言う。「今の自分にとって最も大切なのは、『パパ、今日の算数の授業で何をしたと思う?』という子供たちからの問いかけだ」

人生の大部分の時間をバスケットボールコートに注ぎ、成功を手にしたアレンは今、静かにコートを去る決断を下した。

1996年のNBAドラフトでティンバーウルブズから全体5位指名されたアレンは、すぐにトレードでバックスへ入団。ルーキーイヤーから82試合に出場、1試合平均13.4得点を挙げる活躍を見せた。
2002年に加入したシアトル・スーパーソニックスには5シーズン在籍。05-06シーズンには3ポイントシュート269本を含むキャリアハイの1955得点をマークした。
2007年に加入したセルティックには5シーズン在籍。ケビン・ガーネット(左)とポール・ピアース(右)と「ビッグ3」を結成し、加入1年目に悲願のNBA制覇を果たした。
2012年にはヒートと契約。レブロン・ジェームズ(左)、ドゥエイン・ウェイド、クリス・ボッシュの「ビッグ3」のサポート役に回り、2012-13シーズンのNBA優勝に貢献した。
アレンが残した3ポイントシュート成功数2973本の数字はもちろんNBA歴代1位。彼の記録を次々と塗り替えるステファン・カリーも通算成功数はようやく1600を超えたところ。この記録はしばらくアレンのものだ。