シュート確率が悪い中でアメリカと互角に渡り合う
東京オリンピック以前、バスケットボール女子日本代表のオリンピック出場回数は4度のみで、2000年以降を見ても2度しかない。前回のリオは8位、2018年ワールドカップでは9位に終わっている。トップレベルのアスリートとして常に頂点を狙うことは1つのあるべき姿かもしれない。それでも、そんなチームの指揮官が、「目標はオリンピックで金メダル」と掲げることは、大言壮語と思われても致し方ない部分があるのは否めない。
しかし、女子日本代表ヘッドコーチのトム・ホーバスが言い続けてきた金メダルの思いが決して夢物語ではないことは、7月30日に行われたグループリーグ2試合目のアメリカ戦で証明された。この試合、日本は69-86で敗れたが、第1クォーターにはリードを奪い、第4クォーター中盤まではビハインドを10点前後に留めるなど、オリンピック6連覇中の絶対女王に食い下がった。
特筆すべきは、それがシュート確率が悪い状況でできたこと。シュートは水物であり、確率がすごく良い時もあれば、その逆もあるのがバスケットボールだ。いつも以上の確率でシュートを決めることで実力上位のチームと接戦に持ち込むことは珍しくないが、今回の日本はオフェンスの武器である3ポイントシュートが38本中10本成功、成功率わずか26.3%と完全に不発だった。それでも王者を苦しめたところに大きな意味がある。
「第1クォーターの出だしは良くなかったです。アメリカが我々のペースでプレーするのは好きではないですが、手応えはありました。ローポストでよく戦い、いくつかターンオーバーを奪えた。しかし、いくつかの簡単なレイアップなど多くのシュートを決められなかった」
記者会見でまずこのように試合を総括したホーバスは、「ディフェンスが十分に機能しましたし、いくつかの方法でシュートチャンスを作れることを学べました」と収穫を語るとともに、シュート精度を高めないとアメリカには勝てないとあらためて実感している。
「アメリカともう一回、試合があったら、3ポイントシュートが40%以上は入らないと難しい。オフェンスで結構ノーマルなシュートがあったので、それは決めないといけない」
ただ、この40%以上は決して不可能な数字ではないことは、代表選手たちの過去の3ポイントシュート成功率を見れば明らかだ。そして、この試合を通して、アメリカは決して手の届かない相手ではないとの思いをより強くした。
「リオ以降、私たちは多くの改善を行い、チームのスタンダード、自信、信念はより高まっています。もし、自分たちのスタイルを貫くことができれば勝つこことはできます。今日は勝てませんでしたが、それは次の試合で勝てないというわけではない」
「日本のオフェンスを世界のゴールドスタンダードにしていきたい」
さらにホーバスは「2017年のアジアカップでオーストラリアとはグループリーグで負けたましたが、決勝で日本が勝ちました。そういう感じにやりたいです」と続け、この負けをリベンジへの貴重な教訓にできると考えている。
この試合の日本は、バスケットボールにおいて高さは圧倒的なアドバンテージではあるが、絶対ではないことを示してくれた。町田瑠唯が自分より40cm高いアメリカのブリトニー・グライナーをかわしてゴール下に切れ込み、相手ディフェンスを翻弄する姿は多くの人を沸かせ、新たな可能性を見せてくれた。だからこそ今、2020年2月の五輪最終予選を終えた直後ホーバスが語った決意を思い出す。
「男子と違って女子の場合、WNBAや欧州もまだセンター中心のバスケットボールをやっているところが多いと感じます。ただ、日本では大きなセンターを中心にしたバスケットボールでは世界相手に戦えない。私たちはスピード、遂行力、クイックローテーション、ボールムーブメントを重視して戦います」
「2人がペネトレイトで仕掛けて、5人全員が外からシュートを打つことができる。このスタイルには大きな可能性があるし、お客さんも見ていて面白いと思う。今の日本のオフェンスを世界のゴールドスタンダードにしていきたい」
ホーバスの作り上げたスタイルが、新機軸として世界に認められるには日本が勝ち進む必要がある。まずはグループリーグ最終戦のナイジェリア戦に勝って決勝トーナメントへ進出することが最低条件だが、日本がいつものバスケットボールを遂行できれば必ず達成できる。