『上手くいかない時』が滅多に出ないチームの成熟
2連覇を目指すトロント・ラプターズは、ファイナルMVPのカワイ・レナードが移籍してしまったものの、昨シーズンを上回るペースで勝利を重ねてきました。新エースとなったパスカル・シアカムが開幕からハイスコアを連発すれば、フレッド・バンブリードは得点、アシスト、リバウンド、スティールと多くの部門でキャリアハイを記録し、新たな核となる選手がステップアップしています。
シーズン序盤は中心選手だけで戦う形でしたが、チームのベースが固まるとロンディ・ホリス・ジェファーソンはエースキラーとして、テレンス・デイビスは切り込み役として、クリス・ブーシェイはリムプロテクターとして、マット・トーマスは3ポイントシューターとして、ニューカマーがそれぞれの得意分野で存在感を示すようになりました。28試合を欠場しているマルク・ガソルのように主力の離脱があってもカバーできる分厚い選手層が出来上がりつつあります。
ラプターズの真骨頂は変幻自在の戦い方にあり、ヘッドコーチのニック・ナースは対戦相手に応じた様々な策を講じてきます。ポジションにこだわらないラインナップを敷くだけでなく、相手ポイントガードをシアカムにマークさせるなど『奇策』に見える戦略を頻繁に採用してきます。驚くべきはそんな奇策によってポジションバランスが悪いメンバーになっても、すべての選手が柔軟に対応することで、個性が生かされながらもバランスも取れていることです。
1年前も柔軟な戦い方は見せていたものの、チーム戦術が停滞しそうな場面ではレナードの個人技を攻守にわたって織り交ぜ、『上手くいかない時』をスーパースターの個人技で解決していました。今はそもそも『上手くいかない時』が滅多に出てきません。チームとしての戦術レベルはNBAトップだといえるでしょう。
シアカムとアヌノビーを利用した多彩な作戦
満点を与えて良いシーズンを過ごしてきましたが、これだけ上手くいくとレナードが移籍を選んだ時点で現実的な目標ではないと思われた2連覇への期待も出てきます。対戦相手の長所と短所を見極め、柔軟で多彩な戦い方をするといっても、自分たちに『相手を上回る武器』がなければ勝てません。
昨シーズンのプレーオフではレナードを、ディフェンスではエースキラーにもヘルプ担当にも使い、オフェンスでは個人技でガンガン仕掛けさせることもあれば、囮としてパスを増やさせるなど、相手に応じた対応を任せており、いくらチームの戦術レベルが高くても、優勝にはスーパースターが必要だと感じさせました。この役割を誰にやらせるかが連覇へのキーポイントになります。
今シーズンは『奇策』的な戦略にはシアカムとOG・アヌノビーを多く使っています。ディフェンスで『相手のシュートを落とさせたい時』はウイングスパンが長くフットワークの良いシアカムにマークさせるのに対し、『相手にボールを持たせたくない時』は反応力が高くハンドチェックの上手いアヌノビーにマークさせて激しくプレッシャーをかけます。
試合の中で違う形の止め方を組み合わせることで、相手のリズムを狂わせるディフェンスが、徐々に相手エースのメンタルを削ってもいくため、ラプターズは後半に追い上げる形が特徴になってきました。
一方で、オフェンス面では困った時のアイソレーションをシアカムに託しますが、フィールドゴール成功率39%とあまり上手くいってません。ここがプレーオフの不安材料となりますが、言い換えると最後までチーム全体でオフェンスを構築することを徹底するでしょう。ラウリーとバンブリードの強気なゲームメークに絶対の信頼を寄せるニック・ナースだけに、最後まで自分たちの戦術レベルの高さを信じることになりそうです。
圧倒的な個の力による勝負になりがちなプレーオフで、緻密な戦略とメンタルを削り合う戦いに引き込むラプターズは、優勝の予想を難しくする存在です。連覇は簡単ではありませんが、バスケットの戦術的な面白さを感じさせてくれるチームだけに期待したくなります。
Hope you had an umbrella handy last night. #WeTheNorth pic.twitter.com/D9qDu0QW3y
— Toronto Raptors (@Raptors) July 27, 2020