琉球ゴールデンキングス

指揮官とエースがいなくなる危機を乗り越えての地区首位

新型コロナウィルスの影響でリーグ戦が中断している今、琉球ゴールデンキングスは25勝14敗で西地区首位に立っている。この勝率.641は昨シーズンの成績(40勝20敗、勝率.667)と大差ないが、ここまでのチームの歩みは大きく違っている。

昨シーズンも中盤以降は故障者に苦しめられたが、今シーズンに直面したアクシデントはそれ以上だ。まず、オフシーズンに日本代表経験のあるベテラン選手たちが複数離脱したことで、チームは新しく生まれ変わった。この新生キングスにおいて、攻守の要となるはずだったジョシュ・スコットが再び右膝に重傷を負い、わずか4試合出場のみとシーズン早々に離脱してしまう。

この大きなショックから何とか立ち直りかけていたところで12月に入ると、3シーズン目の指揮を執っていた佐々宜央ヘッドコーチが退任。また、新たにキャプテンに就任し、中心選手としてステップアップしていた田代直希も12月中旬に左足首を痛めると、そのまま残りシーズン全休が確定する。

ヘッドコーチ、大黒柱のビッグマン、日本人の中心的存在とチームの屋台骨となるべき3名がシーズン途中に揃っていなくなるのは、13年目となるキングスの歴史においても初めての非常事態だ。このまま大きく崩れてリーグ下位に転落してもおかしくない危機だった。

しかし、ここでアシスタントだった藤田弘輝が新ヘッドコーチに昇格したキングスは、残りのメンバー一人ひとりがそれぞれステップアップすることで持ち直す。そして2020年に入ると、宇都宮ブレックス、サンロッカーズ渋谷とリーグ屈指の強豪相手にも1勝1敗で乗り切るなど、徐々にだが調子を上げてきている。

琉球ゴールデンキングス

常に新鮮に感じるファンの声援がエナジーに

この危機をキングスが乗り越えられた一番の活力、それは間違いなくファンの声援だ。沖縄出身、今シーズンがチーム8年目の岸本隆一にとって、ホームゲームにおける会場を埋め尽くす満員のサポートは見慣れているものだ。しかし、その岸本であっても、会場の熱狂には常に心が揺さぶられている。

「何故だかわからないですけど毎回、会場の声援は新鮮に感じます。それこそ緊張することもある。本当にこのコートでプレーできていることは幸せで、ホームゲームがある度に素晴らしさを感じます」

こう岸本が強調するように、ファンの声援は常に選手たちに新たなエナジーを与えてくれる。「チームがきつい時、ファンの方たちから団結しようという雰囲気が生まれてくるのでありがたいです」と、ファンの後押しに何度も助けられたことで今、地区首位に立てている。

実際、キングスのホームゲームでは劣勢の時にアリーナMCが観客にチームへの声援を呼びかけることは皆無だ。何故なら、流れが良くない時にはどこからか自然と「ゴーゴーキングス」の声が生まれ、それが瞬く間に会場全体へと波及していくからだ。

ヘッドコーチ交代直後、チームが不安定な中で迎えた12月22日の試合後、ベテランの寒竹隼人は、「僕たちがキングスにいる意味は、何かが変わったからといってブレてはいけないものです。キングスは沖縄のシンボルでいないといけない。僕たちのプレーでたくさんの人たちに元気、勇気を与えるのが大前提です」と語っていた。

これはチーム全員の総意で、この矜持があるからこそキングスはどんな苦境でも前だけを向いて進んでいける。そして、「自分たちは沖縄のシンボル」という思いを持てるのは、『キングスを沖縄の代表』として支えてくれる多くのファンの思いを感じることができるからだ。

琉球ゴールデンキングス

少しでも明るいニュースを届け、ファンを喜ばせる存在に

リーグ再開となると、今まで以上にシーズン終了までタフなスケジュールで文字通りの総力戦となる。試合でプレーすることはできないが、キャプテンの田代直希もチームの一員として戦っていく。

「今の自分は、チームとして何をやるべきかプレーで体現することができない。それは本当に残念です。ただ、その中でもできることはあります。ちょっとプレーがうまくいかなくなって、ネガティブな発想になっている選手に声をかけて、こういう風にしたらとアドバイスをすることを心がけている。マイナスな感情を抱いている人をなるべく少なくできるようにしていきたいです」

また、沖縄では新型コロナウィルスの前には、首里城の火災もあり、社会的に暗い話題が続いてしまっている。だからこそ、『沖縄をもっと元気に!』を球団の理念とするキングスとして、次のような存在になりたいと田代は強調する。

「今は世の中の先行きが不透明な部分で、みなさん苦しい時期です。僕たちがプレーできているのはファンの方々のおかげ。だからこそ、キングスが少しでも明るいニュースを届けることで、みなさんを喜ばせる存在でありたいです」

あらためて言う。キングスの歴史は、常にファンとともに歩み続けることによって紡がれてきた。だからこそ、今回リーグ戦が延期になったことで最も辛かったことを岸本はこう語る。

「あの週、あの日にしか試合を見ることができなかった人たちもいたと思います。自分たちのことより、何よりもそういった試合を楽しみにしていた方たちにとって残念なことでした」

ここからシーズン終了まで、キングスは過酷な戦いが続く。だが、岸本は「今、チームとしてすごく充実しています。例年になくイレギュラーなことが多い中でも、みんなでどうにか良くなっていこう。このポシティブな雰囲気でずっといます」と力強く言う。

そして「どんな困難に対しても立ち上がって壁を乗り越えてきたのがキングスの歴史です。それを、今回も僕たちがコートで表現して証明する番。死にものぐるいで戦うので、その熱量を感じとって一緒になって戦ってもらいたいです」と呼びかける。

ここからシーズン終了まで、キングスは過酷な戦いが続く。だが、チームに不安はない。常にファンとともにあることを象徴する『団結の力』があれば、今回も乗り越えていける。そこには確固たる自信があるからだ。