八村塁

問題をすぐに解消させて遂行できるのは、優れた選手の証

「最後は経験の差じゃないですけど、アルゼンチンにガッと離されて負けたんですけど、オフェンスでもディフェンスでも僕らも良いものが得られたんじゃないかなと思います」

ワールドカップに向けたチーム強化で最も大事な今週の3試合、その初戦のアルゼンチン戦を終えて八村塁はこう語る。「経験の差でやられたイメージ。そこは僕らもこれから経験を積んでいくので、今日みたいな試合は絶対に忘れず、これからに生かしたい。あちらは決めるべきところを決めて、こちらは決めるべきところで全然決められなかったので、そこが経験の差」

アルゼンチンは日本に対してほぼスカウティングをしていなかったようで、それがハイスコアゲームとなった一つの要因なのだが、それでも八村へのマークは厳しかった。NBAプレーヤーになったことで、これからどこと戦うにしても相手は自分のことを知っており、警戒してくる。

先週のニュージーランド戦では、そうした状況でもチームメートは八村を優先してボールを預け、八村は強引な仕掛けとシュートを繰り返した。エースが決めればチームは勢い付くが、逆のケースもある。ニュージーランドとの2試合では、その2つが交互に出た。ではこのアルゼンチン戦ではどうだったか。八村は23得点を挙げるとともに、篠山竜青の7に次ぐ5つのアシストを記録。自分にマークを引き付けて空いた味方を生かすプレーがしばしば出た。前週の問題をすぐに解消させて試合の中で遂行できるのは、優れた選手の証である。

「今日もマークが厳しく、そういうところで僕らもプレーメーキングすることで、チームがどんどん、どのポジションからも点数を取れることが強みなので、そこは今日生きていたんじゃないかなと思います」

第2クォーターの終盤、八村は自らボールプッシュしてニック・ファジーカスのためにスペースを作って3ポイントシュートをアシストした。その直後にはアーリーオフェンスで迷わず仕掛け、2人を引き付けて馬場雄大のリバースレイアップをアシスト。連続得点でアルゼンチンにタイムアウトを取らせる会心のアシスト2発だった。

八村塁

「負けている時間帯でどれだけ頭を下げずにできるか」

日本代表は第2クォーター途中に17点の大量ビハインドを背負いながら、6分半で3点差にまで詰め寄って前半を終えた。この時間帯がアルゼンチン戦のハイライトだろう。「僕らがディフェンスをゾーンに変えたこともあると思いますが、そこから足がすごく運んで、走って速攻も仕掛けられていたのが良かった。負けている時間帯でどれだけ頭を下げずに冷静に、今日みたいに自分たちでエンジンを切り替えられるかが大事だと思います」

ディフェンスはまだまだ修正が必要だが、オフェンスは先週よりもチームでボールをシェアできるようになり、八村を使わないパターンで得点したり、ファジーカスから八村へのハイローというホットライン、そこからさらなるパスでの展開という、今後の成熟が楽しみな攻めが何度も見られた。

1万6211人を集め、そのほとんどが日本のファンという環境は、八村にとっても大きな喜びだったようだ。「こういう大きな体育館は日本にはあまりないですがアメリカには結構あって、似たような雰囲気でできて楽しかったですし、親善試合をあと2試合できるので楽しみです。オリンピックに向けて、その前にこういう試合ができたのはすごく良かったです」

これまでの日本では考えられなかった『個』が集結し、チームバスケットのレベルを高めつつある。アルゼンチン戦はエンタテインメントとしても極めて上質な試合だった。ただ、本番はこの後。真剣勝負の中で、チームバスケットに組み込まれた八村がどのようなプレーを見せてくれるのか。残る2試合でも良い収穫と課題を得られることを期待したい。