佐古賢一

シーホース三河のチーム編成を担う佐古賢一取締役は、今のチームに生まれているカルチャーを積み上げていくために、日本人選手を全員残留させる継続路線を選択した。2年連続で果たした「チャンピオンシップ出場」のさらに上に進んでいくために必要なモノと、地域社会におけるクラブの存在意義について考えを聞いた。

「変化に対応できる能力と人間力を高めていくことが大切」

──前編のラストで、ライアン・リッチマンヘッドコーチ体制となったこの2年間の変化についてうかがいました。競技面以外にも変化を感じることはありましたか。

以前は「選手をできるだけバスケットボールに集中させたい」という現場の方針により、イベントなどバスケットボール以外の活動への参加はあまり多くありませんでしたが、今はライアンヘッドコーチの理解のもと、ファン獲得のための活動に積極的に参加してもらうことが増えました。フロント側としてはホームゲームのチケットを多く売る施策を打っていく中で、選手たちがPRに協力してくれるようになったことは大きいです。この変化はフロントスタッフのモチベーションにも繋がっています。

──Bリーグも今シーズンで10年目となります。佐古さんから見て、選手の置かれている環境の変化や「ここまでのクォリティのチームを作れば上位に入れる」といった勝利のハードルは変わっていると感じますか。

かなり変化していると思います。リーグの規模が大きくなったことで注目度も増しています。例えば三河の選手は、刈谷市を含む西三河地域ではすごく有名で、街を歩けば声をかけてもらえる環境になりました。そういう面でも選手たちのマインドの変化はかなり大きいと思います。

バスケットボールに関しては、リーグ全体で力の差はあまりありません。日本代表や名前の知れた選手が多い豪華なチームに対して、どのチームも競ったり勝つことができる。「この選手さえ取れれば優勝できる」というのはひと昔前の考えで、いかにチームとして1つになってシーズンを通して成長していけるかが重要になりました。そのため選手は変化に対応できる能力と人間力を高めていくことがより大切になっていると思います。

──おっしゃるとおり、各チームの実力差は非常に少なくなってきましたが、最終的にトップ4に残るチームはここ4〜5年である程度固定化されています。こういったチームと三河にどのような差があると感じていますか。

言葉で的確に表現するのは難しいですが、上位のチームと比較して足りないものの一つに「プライド」があると思います。常に上位にいるチームの選手たちは、「結果を残さないといけない」と強い気持ちでバスケットボールに取り組んでいると思います。フィフティ・フィフティのルーズボールの取り合い、リバウンド争いにおける闘志や、勝利への執念などにそれは出てくるものです。

上位チームの牙城を崩すのは簡単なことではありません。そのために我々は今シーズン、日本人選手を変えずにカルチャーを構築していくことを選択しました。ただ、上位を倒す可能性が低いかと言えばそうではない。必ずチャンスは来ると思っていますし、チャンスを引き寄せるために課題にしっかりと向き合わないといけない。そして今の三河は、チームだけでなくフロント側もしっかりと課題を認識して、階段を登るためにいろいろなことに取り組んでいます。

西田優大

「ファンの一言一言が我々を成長させてくれる」

──現役時代の佐古さんは、まさに勝利への執念を全面に押し出して味方を鼓舞し、プレーする選手でした。当時と今とでは社会情勢が変わっている中、そのようなプレーを促すためにどんなアプローチが大切だと思いますか。

我々の時代は「ハラスメント」という言葉は今ほど一般的ではなかったですし、今と昔では「根性」に対するとらえ方も違っています。昔は「やれ」と言ったら強制的にやらせることもできたと思いますが、今はそういう時代ではなく、強制的にやらせることの無意味さがより浸透しています。

だからこそ、今の選手たちに特に大事なのは自立だと思います。彼らは当時の我々よりも数段、洗練された自立心を備えていますが、それゆえ息苦しさも感じているのではないかと考えています。我々がやるべきことは選手たち一人ひとりに、それぞれが成長するため、チームカルチャーを構築していくために必要なことを伝え続けていくこと。その結果、自立した選手がそれぞれの考えをすり合わせ、チームとして1つになっていくことが今の時代に合っていると思います。今のバスケットボール選手は大学年代からプロとして求められる姿勢・考えを理解し、準備ができている選手が多いので、それをより成長させていける環境を作っていくことが重要です。

──前編でもお話しいただきましたが、佐古さんは三河を大都市にあるビッグクラブとはとらえていません。クラブ、選手はそのような地域においてどういう存在になっていくべきだと考えていますか。

理想としては、バックスのヤニス・アデトクンポとミルウォーキーのような関係です。ミルウォーキー一筋でプレーし、街への愛を常々語っているアデトクンボですが、NBA入り当初、道に迷った彼をファンが車に乗せて会場まで連れて行ったという有名なエピソードがあります。地域密着を目指していく中で、我々もこのような地元の人々との関係を築いていきたいです。

私自身、31歳で(三河の前身にあたる)アイシンシーホースに加入するまでは首都圏で生活をしていたのですが、西三河地方は自然が豊かでファンの方との距離感も良く、バスケットボール選手としてだけでなく人間としても成長させてもらいました。自分のバスケットボール人生において、ここで過ごす日々はとても有意義なものでした。今、三河でプレーしている選手たちにも同じような思いを持ってもらえたらと思います。

──最後、ファンへのメッセージをお願いします。

日頃からファンの皆さまには本当にお世話になっています。皆さまのサポートのおかげでフロント・選手とも、より成長できる環境を作れています。皆さまの一言一言が我々を成長させてくれるのは間違いないので、今シーズンも期待して会場に足を運んでいただいて、叱咤激励をお願いします。地元地域、ファンと一緒に成長していく姿勢はクラブ全体に浸透しています。全力で取り組みますので応援よろしくお願いします。