赤いユニフォームを手に「また着られるんだ」と感慨
6月7日、女子日本代表はチャイニーズ・タイペイとの強化試合を実施し、コーリー・ゲインズヘッドコーチ体制で初の実戦を95-42と圧倒した。
攻守で力の差を見せつけた日本だが、そもそもチャイニーズ・タイペイは来月に行われるFIBA女子アジアカップでトップ8が集うディビジョンAに出場できない格下で、大差で勝つのは当たり前。それでも各選手が自分に与えられた役割を遂行しようと高い集中力でハードワークを見せたことは収穫だった。
星杏璃は3ポイントシュート3本成功を含む11得点をマーク。また、切れ味鋭いドライブでディフェンスを切り崩すなど、多彩なオフェンス能力でインパクトを残した。2023年に行われた前回のアジアカップで主力を務めるなど代表経験は十分だが、彼女にとって今回の強化試合は大きな意味があった。
昨年2月、星はオリンピック最終予選の直前に左膝前十字靭帯を断裂。ヨーロッパで大会最後の調整を行っていた練習試合での大ケガによって失意の帰国を余儀なくされた。その最終予選ではスタメン出場が予定されており、ケガがなければパリオリンピックにも出場していたはずだった。
懸命のリハビリによって昨年の10月中旬にはWリーグで実戦復帰を果たしていたが、「やっぱり代表の赤いユニフォームをいただいた時、『また着られるんだ』と思いました。赤く染まった会場で再びプレーできたことが感慨深い」と特別な感情があった。
ゲインズ新体制となった日本代表では、星の役割も変わっている。これまではポイントガードと一緒にボール運びを担うコンボガードが彼女の役割だったが、「今回は『空いてなくてもシュートを打ってほしい』と言われていて、自分的にはシューターが役割と受け取っています。空いていなくても自分のタイミングだったらどんどん打ち、それを決めてチームに波を持ってくるのが仕事です」と語る。
「またゼロからのスタート。毎日が必死です」
それでも、外角シュートだけに固執せず、持ち味である緩急を生かしたドライブを効果的に繰り出すことも大切にしている。「3ポイントシュートだけにこだわりたいわけではありません。自分のタイミングだったら打ち、相手がシュートを警戒して詰めてきたら、ドリブルで抜いてフィッシュまで持っていく。ゴール下に相手が寄ってきたらアシストする部分はなくさないようにしていきたいです。自分の持ち味が消えてしまったらいけないと思います。3ポイントシュートを打てるし、ハンドラーとしてアタックもできることを強みにしていきたいです」
前体制の日本代表では確固たる地位を築いていた星だが、ケガがあって新体制となった今のチームでは、他の選手たちと横一線という認識だ。「実績は関係なく、またゼロからのスタートです。自分より若くて上手な選手はたくさんいます。課題が合宿でたくさん出てきて毎日が必死ですし、勉強になります。ポジション争いは厳しいと感じています」
星はサバイバルレースの現状をそう語るが、あと一歩で出場を逃したオリンピックに懸ける思いは誰にも負けない。「パリに出られなくてすごく悔しかったです。でも、その悔しさがあるからこそ、ここから3年は死にもの狂いでオリンピックへの切符をつかみたい。悔しさがロスオリンピックに挑戦する気持ちを作ってくれたと思います」
25歳となった今、「経験豊富な先輩方はたくさんいますが、自分も若手ではないので、いつまでも頼ってばかりではダメです。プレー面もそうですし、どれだけ自分からコミュニケーションを取っていけるかは自分の成長にもかかっています。お姉さんたちがいることは関係なく、自分が引っ張っていく気持ちでやっていきたいです」とリーダーシップも強く意識している。
オリンピックの夢舞台を直前で逃すどん底から這い上がり、星は日本代表に戻ってきた。心身ともによりたくましさを増した彼女の活躍がより楽しみになる復活への第一歩となった。