「同じことをしたいとは思わない」と、儀式封印を示唆
4月7日のクリッパーズ戦は、ウォリアーズにとって特別な一戦になる。すでにプレーオフ進出を決めているとはいえ、同試合は、今シーズンまで本拠地として使用するオラクル・アリーナで最後のレギュラーシーズンゲームになるからだ。
プレーオフでも同会場で試合は行われるが、クリッパーズ戦でオラクルでのレギュラーシーズンは幕を閉じる。となると、ステフィン・カリーが試合前に行っている恒例の『トンネルショット』も、レギュラーシーズンでは最後になる。
『トンネルショット』は、カリーにとってホームゲーム前の儀式になっているルーティンの一つ。サンフランシスコに建設中の新アリーナ、チェイス・センター内の構造の違いという理由もあるが、彼は、この儀式をオラクル以外で続けるつもりはないと語る。
「オラクルには特別な何かがあるんだ。(チェイス・センターで)同じことをしたいとは思わない。何か違う形になるんじゃないかな」
『トンネルショット』は、元ウォリアーズのモンテ・エリスが遊び感覚でやっていたものをカリーが受け継ぎ、数年前から自分のルーティンに加えた。カリーにとっては試合前の大事な儀式となり、ファンにとってもお目当ての『トンネルショット』には、オラクル・アリーナの警備を担当しているカーティス・ジョーンズ氏が欠かせない。『アシストマン』の愛称で知られるようになったジョーンズ氏は、ホームでの練習終了後、ロッカーへと通じる通路に下がった彼にボールをパスする役割を担っている。このボールにも、カリーなりのこだわりがある。NBA史上トップクラスのシューターであるカリーでも、『トンネルショット』を1回で成功させられない時もある。何度か繰り返すこともあるのだが、失投しても必ず同じボールを使用することが、カリー流のこだわりだ。
カリーは「彼(ジョーンズ氏)は、必ず正しいボールを選んでくれるんだ」と言う。「彼は、いつも椅子の下にボールを隠してくれている。失投したらボールを自分に戻してくれるんだけれど、必ず同じボールじゃないとダメなんだ。彼は通路を空けてくれるし、プロテクターなんだよ」
『トンネルショット』を成功させられれば、カリーはジョーンズ氏と握手し、静かに一言二言だけ言葉をかわしてロッカーに戻る。そしてジョーンズ氏も、警備としての仕事に戻る。このやり取りを何年も続けている間に、2人の間には阿吽の呼吸も生まれた。『San Francisco Chronicle』によれば、警備はいかなる観客であっても選手に近づけてはいけないという規則があるが、障害を持った子供、難病と闘う子供、ケガをした子供が観戦に訪れ、カリーとジョーンズ氏がその子供の存在に気づいた場合、2人はアイコンタクトや頷く仕草だけで意思を伝え合い、カリーが彼らと簡単な交流ができるように動きを合わせるという。
ジョーンズ氏は「ステフが子供たちに与える影響の大きさはすごい」と話す。「子供たちががっかりする顔を見るのは辛い。カリーという選手は、子供たちにとってそれだけ大きな存在なのです。私も、子供たちには喜んで帰ってもらいたい。(カリーとの交流が)子供たちに自信や、大きな力を与えてくれるのです」
ジョーンズ氏がチェイス・センターの警備を務めることになるかは分かっていない。もし警備として雇われることになっても、カリーが言うように、新アリーナでは『トンネルショット』に代わる試合前の儀式が誕生するのだろう。
明日のクリッパーズ戦、そしてプレーオフを含めてあと何試合で『トンネルショット』を見られるかは分からないが、幸運にも今シーズン終了までにオラクルでの試合を観戦する機会があるファンにとっては、見ておくべき光景ではないだろうか。