「この道を辿れば代表に入れるかなという気持ちになりました」
ワールドカップ開幕まで1カ月を切り、バスケットボール男子日本代表は過酷なサバイバルレースの真っ只中にいる。
トム・ホーバスヘッドコーチは「フランスとスロベニア戦の前には12名を決めたいです」と言い、最終ロスター決定の時期を具体的に示した。それでも「フィフティ・フィフティの選手が何人もいます」と言うように、指揮官は選考に頭を悩ませている。代表に合流したばかりの渡邊雄太に関しては『ストレッチ4』での起用を明言。帰化枠のジョシュ・ホーキンソンのロスター入りが濃厚なことを考えると、残るビッグマンの枠は多くても2、3人だろう。
「エリート街道というか、僕はすごい高校、すごい大学を出ているわけではないです。そういう学校を出ていなくてもチャンスはあるということを見せられると思っています。代表歴自体もそんなになかったので遅咲きですけど、そういう人でもチャンスをつかめるということは見せたいです」
こう語ったのは、先日行われた韓国遠征で多大なインパクトを残した川真田紘也だ。川真田は韓国との第2戦で見事なブロックショットを決め、自身のスティールから速攻に転じたシーンでは、相手のブロックの上から豪快なダンクを叩きこみ衝撃を与えた。そして、フィジカルやメンタルでも上回り、日本のインサイドの要として機能し勝利に貢献した。川真田もこの試合がターニングポイントになったという。
「4戦くらいしましたけど、どうしても代表での自分の立ち位置というのがなかなかつかめなくて、特に良いところも悪いところもなく、何とも言えないところにいました。でもゲーム2でやっと自分らしいプレーというか、自分ができることをちゃんと証明できました。もちろん足りない部分がたくさんありますけど、この道を辿ればワールドカップの代表に入れるかなという気持ちになりました」
ちなみに速攻でダンクをかました際に痛がっているようにも喜んでいるようにも見えた着地については、このように説明した。「こけたのは勢いです。勢いがあったので耐えたら危ないと思ったので、ある意味ケガ防止ですね。転んで痛かったんですけどうれしかったので『よっしゃー』と。楽しい試合だったので『キタキタキター!』みたいな、ベンチも盛り上がっていたのでいろんな感情がありましたね」
韓国との第2戦は「もちろんキツいですけど、楽しいが勝っていた」
韓国遠征第2戦の川真田は過去最長となる20分前後のプレータイムを得た。インテンシティの高い韓国が相手とあって、体力の消耗はいつもよりも激しいことが予想されたが、川真田は精神が肉体を凌駕していた。
「疲労はなかったですね。なかったというのはちょっと盛りましたけど(笑)。もちろんキツいですけど、楽しいが勝っていたというか。自分も良いプレーができていたので、疲労よりももっとしたい気持ちが強かったです」
川真田は結果を出してアピールに成功したが、これから続く強化試合の相手は今まで以上にレベルが高くなる。そのため指揮官も「川真田は韓国戦ですごく良かった。でも韓国戦は彼の方がサイズがありました。(ワールドカップで対戦する)ドイツは彼より大きい選手がいっぱいいます。これからの強化試合で、自分より大きい相手にどこまでできるのかテストしたい」と言い、これからのパフォーマンスが重要だということを示唆した。
もちろんそれは、川真田も重々承知だ。「韓国もレベルが高い相手でしたが、自分のやる事はリバウンド、スクリーンで、そこをどれだけ徹底してできるか。やられる時もあると思うんですけど、そのやられる回数を減らし、どれだけ自分のペースでやれるか。そういうところをトムさんに見せたいなと思っています」
自身の役割の一つにスクリーンを挙げたが、スクリーンは一人で完結するものではなく、使い手との細かな連携が必要だ。川真田はそれを理解しているからこそ、使い手と対等な関係を築き、積極的に自己主張をする。
「ハンドラーの人に動かれたら(スクリーンを)かけづらくなるので待ってもらったり、その上で自分がちゃんとかけに行く、そういう連携があってのプレーです。僕もこんなプレーがしたいとか、こういう狙いがあるというのを伝えることによって、ガード陣の選択肢も増えるかなと。協力ですよね、そういうのは少しずつ言っています。もちろんすごい選手ばかりですけど、僕も代表の候補です。自分のしたいことは言いますし、そういうコミュニケーションは良いことなので結構しゃべります」
エリートたちに物怖じせずに指示が出せ、ムードメーカーも務める川真田の存在は、現在の代表にとって必要なピースの一つになりつつある。